りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014/12 おだまり、ローズ(ロジーナ・ハリソン)

ランク外にしましたが、柚木さんの『早稲女』は面白かったですね。男でも女でもない「第三の性」が、早稲田の女子学生とは、意表を衝いてくれるものですが、なぜか説得力あり。そういえば、今月に3冊も一気読みした朱田帰子さんは「早稲女」です。
1.おだまり、ローズ(ロジーナ・ハリソン)
20世紀半ば戦争を挟んで35年もの間、機知と美貌を兼ね備えながら、とてつもなく気まぐれで我儘な子爵夫人のお付きメイドとして仕えたローズの回想記。『日の名残り』のような時代を切り取った情景のみならず、労働者階級の出身ながら、才能に恵まれ好奇心が旺盛で気が強い娘の成功物語にもなっています。タイトルは夫人の口癖ですが、ローズだって決して負けていないのです。

2.海うそ(梨木香歩)
昭和の初期に南九州の離島に調査に入った地理学者は、明治の廃仏毀釈が消し去ったものは仏教ではなく、今では地名や伝承に細々と伝えられるにすぎない原始宗教の名残りだったのではないかと気づきます。50年後に島を再訪した男は、「喪失とは、私のなかに降り積もる時間が、増えていくことなのだった」と述懐するのですが、それには彼個人に関わる出来事も関わっていたのです。名作の『家守綺譚』や『冬虫夏草』をより深く理解するためにも、必読の作品でしょう。

3.昏き目の暗殺者(マーガレット・アトウッド)
「悲劇とは長い悲鳴ひとつですむものではない、そこに至るありとあらゆるものを含んでいる」のです。年妹ローラ、夫リチャード、娘エイミーら、一族の者たちの死の真相を告げるには長い物語が必要でした。しかし「誰に」告げる必要があるのでしょうか。老いたアイリスが書き遺した一族の物語は、決して悔恨の歴史というわけではないのです。タイトルは、妹ローラを伝説の作家に祭り上げた作中作小説の題名です。

4.悟浄出立(万城目学)
鴨川ホルモー』から『とっぴんぱらりの風太郎』まで、近畿限定の伝奇ファンタジー小説を著してきた著者の新作の題材は、中国の古典でした。しかも、歴史や物語の脇役に焦点を当てて、「俺はもう、誰かの脇役ではないのだ」と覚醒させていくのですから、ワクワクしてきます。沙悟浄趙雲、虞姫、司馬遷の娘などの脇役が、自分の人生の主役へと変貌していく「過程」こそがドラマなのです。


2014/12/28