りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

サフラン・キッチン(ヤスミン・クラウザー)

イメージ 1

2つの祖国のはざまで自らのアイデンティティを模索する母娘の物語。

母マリアムは、革命前のイランの地方都市で将軍の娘として生まれました。父の使用人アリと恋に堕ちて父の不興をかい、イギリスに送られたままイギリス人青年と結婚して娘を授かり、平穏な家庭を築いてきた女性。でも彼女は40年たった今でも、過去をきちんと整理できていないのです。

マリアムの不安定な精神が引き起こしてしまったある事件で、娘のサラが流産。娘を傷つけてしまったことで自分の過去ときっちり向き合うことを決意し、単身イランへと旅立ったマリアム。そしてサラもイランへと向かいます。2人がイランで出会うことになるのは、母が棄ててきた「過去」でした。

老いたマリアムの心は、サフランのように赤いイランの大地に今も一人で暮らすかつての恋人と、長年連れ添った心優しいイギリス人の夫の間で、今でも揺れ動いているのです。彼女の心は40年もの間ずっと、2つの祖国の間で引き裂かれていたのでしょう。

母を待つ間にイギリスのキッチンをサフラン色に塗り上げたサラにも、今まで一度も訪れていなかった母の祖国イランは、常に意識されていた存在でした。はじめて踏みしめたイランの地で、娘として、女として、母と向かい合うサラは、マリアムを連れ帰ることができるのでしょうか。

移民1世の母と、移民2世の娘の物語という点では、エイミ・タンの『ジョイ・ラック・クラブ』と共通しています。でも、2つの本を隔てる20年の差は大きいですね。移民にとっての欧米は、そこで成功を掴んだ者にとっても、無条件に理想の国というものではなくなっています。ジュンパ・ラヒリ停電の夜にその名にちなんでのほうが、テイストは近い感じです。

2007/9