2013-01-01から1年間の記事一覧
本書が出版された1970年代ではまだ、近親相姦や小児性愛や服装倒錯や幼児退行などはタブーに属していたのでしょう。現代ではすでに目新しくはないテーマなのですが、各短編を貫いてるのはエロティシズムではありません。むしろ皆が心の奥底に秘めており…
「時間旅行者の系譜」とのサブタイトルを持つファンタジー3部作の最終巻。自分が突然、「円環を閉じる」役割を担う12人目のタイムトラベラーであると気づかされ、準備もないまま過去への冒険に狩りだされたグウェンは、普通の女子高校生。ペアを組まされ…
3歳になる娘・花奈とベイエリアのタワーマンションに住むヤンママの有紗は、アメリカに単身赴任中の夫から離婚を迫られています。娘の幼稚園お受験どころか、義父母からもマンション賃貸料負担が重いとこぼされ、「地に足をつけていく」よう苦言を呈される…
『インターネットを探して(アンドリュー・ブルーム)』のような、ネット社会の背景に迫るような本ではありませんでした。ビジネスマンの生き方を見つめ直すきっかけを与えることをテーマとした作品です。ちょっとした「ビジネス本」のようなもの。 大手家電…
コンゴの幻獣『ムベンベ』やトルコの怪獣ジャナワールなどの捜索をしてきた「未確認未知動物探検家」の次のターゲットはインド発の怪魚情報でした。「モッカ」というハンドルネームの日本人によって目撃された魚だから「魚+モッカ」=「ウモッカ」。現地の…
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをして、それを面白おかしく書く」ことをモットーにしている、早稲田大学探検部出身のレポートだけのことはあります。世界最大のアヘン生産地にして反政府ゲリラが支配するビルマのワ州に潜入し、辺境の村で半…
「奇想コレクション」で最後まで未読だった一冊。SF、ミステリ、幻想小説など分野の異なる各賞を受賞した著者の作品らしく、多彩です。晩年は不遇だったようですが、元の奥様による「序文」が丁寧な弔辞となっています。 「ゴーレム」 静かな住宅街に住む…
『ミミズクと夜の王』で電撃小説大賞を受賞した著者の第2作はやはり魔物の物語ですが、前作よりも「グリム色」は薄れているようです。 魔術師の血筋であるサルバドールに生まれたものの魔術の才には恵まれなかった少女・トトは、神殿の奥に迷い込んで「人喰…
自動人形、遊園地、気球飛行、百貨店・・。どれをとっても不思議な違和感が漂う12編の短編。身の回りの普通の「もの」が過剰に完璧になると「芸術」になるのです。普通の「ひと」を過剰に描写すると「文学」になるように。「ミルハウザーの世界」へようこ…
すでに多くの作家が「働く女性たちの痛快お仕事小説」というジャンルの作品を手がけていますので、テーマ自体には新味はありません。でも『県庁の星』の著者である桂さんにとって、これは得意分野ですね。中堅時計メーカーという、実際にもダイバーシティの…
全27巻を費やした「流血女神伝シリーズ」がついに完結。この3ヶ月、楽しませていただきました。歴史小説のエッセンスを詰め込み、ラブコメのパウダーを振り掛け、しかも神々からの人間の自立というテーマで包み込んだ大河ファンタジーは、長さは圧倒的に…
ユリ・スカヤ王国の新女王となったネフィシカは、ザカリエ女神への帰依を明らかにします。エティカヤ王国のバルアンとは崩壊寸前のルトヴィア帝国の分割の密約を交わす一方で、亡国のザカールの民を糾合すべく「女神の娘」であるカリエをミゼーマ宮に幽閉。…
「流血女神伝シリーズ」の最終第4部の開始です。人間としての意思を信じて「ザカリア女神の花嫁」としての運命を振り切り、ザカールから脱出したカリエは、リウジールの子を宿したまま北の王国ユリ・スカナへと向かいます。旅の途上でカリエが産み落とした…
須賀敦子さんの『遠い朝の本たち』で紹介されていた作品です。若い日の須賀さんに影響を与えたという本書は、著者自身がドイツ軍の捕虜となっていた時から書きはじめられたという「知識人のレジスタンスの物語」であるのみならず、新しい男女関係のあり方に…
北鎌倉の古書店を舞台にした人気シリーズの第2弾。洞察力と推理力と古書知識を持つものの、本に関すること以外では人見知りの女性古書店主・篠川栞子が、本を読めないバイト青年・大輔をワトソン役にして、本に関するミステリを解き明かしていく連作短編集…
ベルファスト生まれの詩人による不思議な小説は分類不可能とのことで「文学においてのカモノハシ」と評されるほど。 AからZまでの章題のもとに紡がれている物語は、父親が語ってくれた「冒険王ジャック」の不思議な物語、ギリシャ神話の変身物語、中世キリ…
『ガラテイア2.2』で人工知能を、『エコー・メイカー』で脳科学をテーマとしてきた著者は、最新作で遺伝子工学を扱いました。人間の探求に関わる科学分野への人文的なアプローチです。 スランプに陥った元作家ラッセルの創作クラスに参加したアルジェリア…
尊敬する小松原様(御膳奉行の小野寺数馬)との縁談を断り、吉原の大火で又次を失った澪の物語は、新しい局面に入ったようです。いろいろな動きが出てきました。 天満一兆庵の跡継ぎでありながら行方不明であった佐兵衛の行方が判明します。母親の芳との再会…
死んだ男が無限の都市をさまよう奇想天外な「序」で幕を開ける本書は、どこまでが幻想でどこからが物語なのか判然としない作品です。 都会に出てきた若者は、「絶望カメラ」で死者の写真を撮り続ける女性に恋をしますが、彼女は突然消え去ってしまいます。彼…
須賀さんが少女時代から大学時代にかけて読んだ本について語った作品ですが、それだけではありません。彼女の精神を生涯に渡って導くことになった「本たち」を最晩年になって振り返った本書は、そのまま彼女の成長記となっているのです。 友人しげちゃんが貸…
宮部みゆきさんの新作を連続して読みました。2作ともいつも通り見事な構成の物語ですが、どちらにも東北の飢饉が登場するのは、大震災への著者の思いなのでしょう。今月1位とした『世界を回せ』もまた、大災害をテーマとした作品です。9.11の同時多発…
「奇想コレクション」の一冊ですが、この著者の作風は「ポストモダン・ゴシック」とでもいうのでしょうか。要するにホラー系であり、少々苦手なジャンル。19編も収録されていますので、印象に残った作品だけ紹介しておきます。 「天使」 腐りゆく天使とい…
町名主の跡取り息子の高橋麻之助と悪友たちのお江戸青春ミステリー『まんまこと』の第2弾。 前作で「偽りの婚約」を交わした寿ずと結婚することになってしまった麻之助でしたが、祝言の日に、悪友・清十郎の父・源兵衛が卒中で倒れてしまいます。病床にある…
ニューヨーク近郊に暮らす上流階級の男女13人の複雑な関係が、30年の時を往来しながら明かされていきます。「詐欺と絵画と変死」を巡る謎解きともなっていますが、主題は彼らの関係そのものでしょう。互いに愛し合い、恨み合い、依存し合い、傷つけあう…
西洋の古典絵画に登場する「アトリビュート」とは、データ・ベースの属性ではありません。登場人物の属性として描かれる小道具のことであり、むしろアトリビュートによって登場人物が誰なのかを示す役割を果たしています。本書はアトリビュートについて解説…
兄弟対決を制したバルアンが王位について1年。エティカヤの最高神オルが眠る聖なる山、オラエン・ヤムにバルアンとともに登った王妃カリエは、女性の地位が低いエティカヤでは前代未聞のヨギナ総督の地位を与えられます。さらに王子アフレイムを出産して、…
18世紀から現代にかけてのアイルランド人作家による短編集です。ルネサンスも宗教改革も産業革命も中産階級の勃興も起きなかったアイルランドでは、長篇小説よりも「個々の生」を物語る短篇小説が発達したとのこと。本書にも収録されているオフェイロンは…
ロベスピエールと組んだダントンとデムーランに追い詰められたエベールは、みたびサン・キュロットに蜂起を呼びかけますが、戦局の好転と生活の安定が見えてきた折、政治的な理由ではパリは燃え上がりません。エベール派は捕えられて断頭台の露と消えること…
1974年8月7日の早朝。フランス人綱渡り師のフィリップ・プティは、マンハッタンのワールド・トレード・センターのツインタワーの間にワイヤーを張って、地上400メートルの高さを渡り切りました。しかし本書は彼の物語ではありません。彼への視線を…
前巻『裁きの曠野』で猟区管理官の仕事から解雇されてしまったジョー・ピケットは、義母の再婚先の牧場で牧童頭を務めています。愛する家族と一緒に暮らせるものの、長年誇りを持って務めてきた仕事から離れたことには寂しさを感じています。そんな彼に、変…