2013-01-01から1年間の記事一覧
江戸は神田、玄関で揉めごとの裁定をする町名主の跡取りに生まれた麻之助を主人公とするシリーズは、「妖」こそ登場せず、主人公が青年であるだけに「恋バナがメイン」という違いこそありますが、大ヒット作「しゃばけシリーズ」の姉妹編のよう。やはり「大…
「ヴァンパイア・クロニクルズ」に属する作品ですが、ここにはレスタトもルイもアルマンも登場しません。彼らとは接点のないまま600年もの間イタリアのトスカナで生き続けてきた孤独なヴァンパイアの物語。 ルネサンス期のトスカナ。地方領主の息子で、天…
「聞いて、聞き捨て。語って語り捨て」。神田の袋物屋「三島屋」を営む叔父夫婦のもとに身を寄せた娘おちかが怪異話を聞くようになったのは、自ら体験した哀しい事件からの癒しを求めてのことでした。宮部さんは「おちかが人の話を受け止められるほどに成長…
全27巻の大作「流血女神伝」の外伝は、「女神の花嫁」としてカリエを救ってきたザカールの美女ラクリゼの物語。もともと著者には、このシリーズをカリエとラクリゼのダブルヒロインで綴るとの構想もあったとのこと。 太古のザカリア女神の定めにより、ザカ…
『ブックストア・ウォーズ』は、いつの間にか『書店ガール』と改題されていたんですね。本書はその続編。前作で内輪もめと売上倍増の大決戦の末に閉店を余儀なくされたペガサス書店の店長・理子と、熱血ガール・亜紀は、吉祥寺の大手書店チェーンに転職を果…
少女姿の仙人・僕僕先生と彼女に惹かれたニート青年の王弁が体験する不思議なロード・ストーリー。シリーズ第7弾は、これまでの6作の傍らで起きていた「外伝」的なエピソード集であり、過去6作の物語とキャラクターの紹介もついているナビゲートブックと…
「修善寺の大患」以降の漱石が著した「後期3部作」では、自意識を自覚するが故の近代人の苦悩が深まっていきます。本書のタイトルは1月1日に連載を開始した小説を彼岸過ぎまで書くつもりだったことに由来しているだけで特段の意味はなく、様式的にも短編…
アフリカ南部の国、ジンバブエに生きる人々の日常生活を描いた短編集です。かつてローデシアと呼ばれたアパルトヘイトの国は1980年に独立したものの、その後30年も居座り続ける大統領の悪政によって、天文学的なハイパーインフレとエイズの蔓延による…
善い人ばかりが住むという千七長屋、通称「善人長屋」の住人は、裏家業を持つ悪党ばかり。差配の儀右衛門は盗品を捌く質屋。髪結い床の半造は情報屋。、季節物を売り歩く唐吉、文吉兄弟は美人局。小間物商いの安太郎は巾着切り。浪人の梶新九郎は偽証文師。…
極めてショッキングなタイトルは、あまりにも有名なニーチェの言葉ですが、本書の内容は「タイトルそのまま」。ディンカ族の若い女に姿を変えて南スーダンの難民キャンプに降臨した神は、冒頭の短編であっさり死んでしまうのです。人間たちの蛮行に対して見…
全27巻の大作「流血女神伝」の第2部「エティカヤ編」の最終巻です。逃亡の旅の途中で罠にはまり、エティカヤ王国の第2王子バルアンの奴隷として売られたカリエの運命は、後宮の愛妾候補から死刑囚へ、男装の小姓から正妃へ、はたまた海賊から隣国の皇妃…
関東の小藩で偽筆文書を証拠に汚職の汚名を着せられて切腹した武士の次男、古橋笙之介が、父親の汚名を晴らすべく奮闘する物語ですが、それだけには留まりません。「偽筆」を足がかりとして、人が「書くこと」への根源的な問いを扱った作品となっています。 …
『神の熱い眠り』に続く「ワーシング年代記」の後半部分は2部構成になっています。 第1部は遥か過去に遡って、強大な権力を得たアブナー・ドーンが銀河帝国の破壊を望むようになるまでの物語。人工冬眠技術による「偽りの不死性」を手に入れた特権階級と、…
「ワーシング年代記」の第一部は不思議な雰囲気で始まります。少年レアドが暮らす辺境の村は、苦痛も不幸も恐怖も病気も存在しない世界だったのですが、一夜にして特権は消え去り、「普通の村」になってしまいます。その朝村に現れた男は、伝説の神と同じ名…
コニー・ウィリスさんの新作『ブラック・アウト』から続く『オール・クリア』がついに完結。他にもキース・ロバーツさんの古典的名作『パヴァーヌ』やケルスティン・ギアさんの作品など、タイムトラベルものを多く読んだのは偶然です。 先月、スコット・トゥ…
ついに本人も知らなかったカリエの正体が明らかになります。彼女こそが亡国ギウタ王国最後の皇女カザリナであり、包囲されて炎上する王都ヨギナから彼女を連れて脱出した人物こそが、謎の美女ラクリゼだったというのです。しかしそれだけではありません。カ…
701年に制定された大宝律令によって、この国の形は決定されました。刑法に相当する「律」と民法・行政法に相当する「令」のみならず、日本という国号、天皇という元首、中央・地方の官制や税制が定められたのです。 本書は、白村江の敗戦によって増大した…
ゴールドラッシュに沸く19世紀半ばのカリフォルニア。悪名轟く凄腕の殺し屋2人組が、雇い主の「提督」に命じられるまま、ある山師を消しにサン・フランシスコへと向かいます。 変なタイトルですが、粗野で狡賢い冷血漢の兄・チャーリーと、普段は心優しい…
穏やかな引退生活を送るアレックスのもとに見知らぬ弁護士から、学生時代の恋人ベロニカの母親からの遺贈品があるとの連絡が入ります。それは、彼の高校時代の親友でケンブリッジ在学中に自殺したエイドリアンの日記でした。ベロニカは主人公と別れた後エイ…
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をモチーフとして、「その先にあるもの」を追求した作品です。ジョバンニが旅した銀河鉄道とはいったい何だったのか、本書に示された著者の答えは、現代に文学がなおも存在しうる理由を問い続けてきた作家にふさわしいものだった…
首都湾岸地域に誘致された大規模なカジノ特区に作られた、古き男性文学者の名を戴いた少女たちが集まるサーカス団。団長のシェークスピア、歌姫のアンデルセン、猛獣使いのカフカ、パントマイムのチャペック、そして空中ブランコのサン=テクジュぺリ。 花形…
2人のスイス人音楽評論家が、中国人美人ピアニストを巡って大論争を繰り広げます。年配の評論家は彼女の演奏を「奇跡」と呼び、若手の評論家は「機械的に正確なだけの猿真似」と呼ぶのです。難曲を弾きこなすテクニックの解説や、ホロビッツやグールドら実…
全27巻の大作である「流血女神伝」の第1部『帝国の娘』の続編は、勃興紀のトルコをイメージしたエティカヤ王国に舞台を移します。 ルトヴィア王国の皇子の身代わりの立場を捨てて太子宮カデーレを脱出した主人公の少女カリエと、彼女に好意を持った教育係…
いわゆる「歴史改変もの」ですが、本書が叙情性に溢れているのは、「歴史改変期間の長さ」によるものなのでしょうか。ジョー・ウォルトンの{{{『ファージング三部作』}}、マイケル・シェイボンの『ユダヤ警官同盟』、クリストファー・プリーストの『双生児』…
ドイツ生れのタイムトラベル・ファンタジー3部作の第2巻です。前作のタイトルであった「ルビー」は主人公の少女グウェンドリンに割り当てられた宝石でしたが、「サファイア」は彼女の年上の従姉妹で、秘密結社「監視団」に反逆して逃亡中のルーシーを指す…
ドイツ生れのタイムトラベル・ファンタジーです。でもなぜか舞台はイギリスなんですね。3部作の第1弾。 タイムトラベラーの家系に生まれた16歳のグウェンドリン。本当は従姉妹のシャーロットがタイムトラベラーといて期待されていて幼い頃から教育を受け…
わずか8万の梁山泊軍が、名将へと変貌を遂げた兀朮(ウジュ)率いる金軍20万を退けることができたのは、紙一重の差だったようです。老いたりとはいえ、史進の存在は大きいのです。しかし、この戦いで楊令の仇として兀朮に迫った蘇琪を返り討ちにしたのは…
『 芙蓉千里シリーズ』で新境地を開いた須賀さんの初期の傑作『流血女神伝』の幕開けを飾る作品です。図書館では「児童向け」に分類されているライト・ノヴェルですが、あなどってはいけません。豊富な世界史知識を背景として作り上げられた世界観と、「少女…
ボツワナの女性探偵マ・ラモツエを主人公とする『No.1レディーズ探偵社』シリーズの著者による、新たなミステリ。これもシリーズ化されているようです。 主人公は、スコットランドのエディンバラに住む、40代前半の女性哲学者イザベル・ダルハウジー。離婚…
幕末期、中仙道を進む参勤交代行列ストーリーは、見事なロードノヴェルに仕上がっています。 屋敷の失火で焼死した父から家督を相続し、交代寄合蒔坂家の御供頭として江戸への参勤行列を差配することになった小野寺一路は、父から何も教わっていなかったため…