りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

チンギス紀 16(北方謙三)

ホラズム国との戦闘が終わろうとしています。大軍を率いた国王アラーウッディーンはカラ・クム砂漠で大敗を喫し、カスピ海の孤島で無念の死を迎えます。精強な傭兵軍を率いたトルケン太后も囚われて力を失いました。後継者となった皇子ジャラールッディーン…

僕は、そして僕たちはどう生きるか(梨木香歩)

昨年ジブリ映画のタイトルとなって注目された『君たちはどう生きるか(吉野源三郎)』へのオマージュとして、2007年から2009年にかけて連載された作品です。 日中戦争の最中に書かれた吉野源三郎作品の主人公と同様に、コペルニクスにちなんで「コペ…

その丘が黄金ならば(C・パム・ジャン)

19世紀後半、ゴールドラッシュが終わった後のアメリカ西部で、両親を失った後に安住の地を捜して旅をする中国系移民の姉妹の物語が、時代を超えた神話のように描かれていきます。時代設定は「xx62年」などとされ、「スウィートウォーター」という架空の…

李の花は散っても(深沢潮)

在日韓国人の家庭に生まれ、後に日本に帰化した著者の作品には、国家間の悲劇に抗いながら日韓融和を模索し続けた2人の女性の半生が描かれています。本書には「長く染み付いている男性中心の語りや価値観に少しでも抗いたい」という、著者の願いが込められ…

夢胡蝶(今村翔吾)

江代中期の火消たちの活躍を描く「羽州ぼろ鳶組シリーズ」の第6巻の舞台は吉原でした。吉原火消は「武家火消」でも「町火消」でもなく、各妓楼が抱えている「店火消」の集合体なんですね。妓楼が焼ければ廓外で無税の臨時営業ができるという「燃えれば儲か…

アンダードッグス(長浦京)

2021年1月期の直木賞候補となった国際アクションストーリーですが、その後の著者の作品と比較するとまだ洗練度が不足していたように感じました。当時の選考委員の選評にも「せわしない」とか「登場人物が多すぎる」とか「深みが読み取れない」とかの言…

ある犬の飼い主の一日(サンダー・コラールト)

人生に絶望しかけた中年男性が生きる喜びを取り戻していく1日をつぶさに描いた本書は、コロナ禍に見舞われたオランダで多くの人を慰めたベストセラーとなりました。 本好きの中年男ヘンクは、離婚して老犬スフルクと暮らすICUのベテラン看護師。ある朝、…

ガラム・マサラ(ラーフル・ライナ)

インドのデリーに生まれ育ち、現在はイギリスとインドの2拠点でビジネスや教師をしている著者のデビュー作です。『ぼくと1ルピーの神様(ヴィカス・スワラップ)』を彷彿とさせる、スラム街に生まれた少年が成功者として成りあがっていくジェットコースタ…

2024/2 Best 3

1.真の人間になる 上下(甘耀明 カン・ヤオミン) 戦中戦後の台湾の混乱期をマジック・リアリズム的な手法で描いた『鬼殺し』に対して、本書はより抒情的な作品です。漢民族からは原住民として異類視され、日本人からは被支配者として迫害され、米国人から…

アミナ(賀淑芳)

1970年にマレーシアの華人家庭で生まれた著者は、マレーシアと台湾やシンガポールを行き来しながら中国語で執筆活動を続けています。マレー人を優遇するブミプトラ政策が敷かれるマレーシアにおいて非マレー、非イスラムの女性の生き方に限界があること…

すみれ荘ファミリア(凪良ゆう)

2020年に『流浪の月』で本屋大賞を受賞した著者が、2018年に著した家族と疑似家族の物語は、人々の裏の顔を暴き出すと同時に、それを越える人間関係のあり方を提示しているようです。 下宿すみれ荘の管理人を務める病弱な一悟は、気心知れた入居者た…

真の人間になる 下(甘耀明)カン・ヤオミン

1945年9月に起こった「三叉山事件」とは、台湾山岳地帯に墜落した米軍輸送機を捜索・救助に向かった日本人警備隊や現地案内人26名が悪天候のために二次遭難。ひとりを除いて全員死亡した事件です。本書の主人公であるハルムトもその一員だったのです…

真の人間になる 上(甘耀明)カン・ヤオミン

戦中戦後の台湾の混乱期をマジック・リアリズム的な手法で描いた『鬼殺し』に対して、本書はより抒情的な作品となっています。 台湾島南部の山岳地帯で生まれ育ったブヌン族の少年ハルムトが主人公。日本の「理蕃政策」に抵抗して鎮圧され山麓へと強制移住さ…

菩薩花(今村翔吾)

江戸時代中期を舞台に火消たちの活躍を描く「羽州ぼろ鳶組シリーズ」の第5巻にあたります。物語は、近江の小藩である仁正寺藩火消頭の柊与市が窮地に陥っている場面から始まります。火消を大幅に削減するという藩の決定を覆すために、年末に発行される火消…

東京ゴースト・シティ(バリー・ユアグロー)

親日家として知られる著者がオリンピック前夜の東京を訪れて、過去と現在が混在する東京を幻視するエッセイ風の小説です。2018年春に来日してアメリカに帰国後も東京の動向を追いながら綴った作品ですが、当初はオリンピックを控えて変貌しつつある大都…

プリンシパル(長浦京)

『リボルバー・リリー』の著者による戦後日本のノワール・ストーリーも、主人公は女性でした。関東最大級の暴力組織である水嶽本家の一人娘である綾女は、終戦と父の死によって突然、後継者であった兄たちが戦地から帰還するまで「代行」役となることを余儀…

廉太郎ノオト(谷津矢車)

これまで江戸時代を主戦場としてユニークな人物像を造形してきた著者が、「明治日本に西洋音楽を響かせることを夢見た早逝の天才の軌跡」を描き出しました。本書の主人公は「荒城の月」や「花」や「箱根八里」などの歌曲や「お正月」や「鳩ぽっぽ」や「雪や…

書架の探偵、貸出中(ジーン・ウルフ)

『書架の探偵』の続編にあたるSFミステリです。主人公は前作と同様に、生前は推理作家であったE・A・スミス。オリジナルの人格と記憶を継承して複製された彼はクローンであって、単なる記憶媒体ではありません。呼吸も食事も排泄もセックスもする生きた…

マルドゥック・アノニマス 8(冲方丁)

第7巻の冒頭に置かれた葬儀の場面に至る過程が綴られる本巻では、シティを支配する「シザーズ」による精神支配から逃れて独立勢力となったハンターと、「シザーズ」の手先となって「クインテット」を離脱したマックスウェルとの壮絶な死闘が描かれます。 ハ…

ミセス・ハリス、ニューヨークへ行く(ポール・ギャリコ)

著者はロンドンの寡婦で通いの家政婦をしている「ミセス・ハリス」が気に入ったようで、彼女を主人公とするシリーズを4作書いています。本書は『ミセス・ハリス、パリへ行く』に続く第2作です。 パリから帰ってきて普通の生活に戻ったハリスおばさんには、…

ミセス・ハリス、パリへ行く(ポール・ギャリコ)

一昨年に見た「ミセス・ハリス、パリへ行く」というほのぼのとした映画には原作があったのですね。1958年に書かれて、邦訳は1979年に出版されています。今般新訳が出たので手に取ってみました。 ストーリーはシンプルです。1950年代のロンドン。…

私はスカーレット 下(林真理子)

アメリカ南部白人が築いた貴族的な文化社会は南北戦争という「風」とともに消え去ってしまいました。その一方で16歳のわがまま娘にすぎなかったスカーレットは、南北戦争を契機として力強い女性へと変身。タラの農園を守るために、資産家フランクを妹スエ…

私はスカーレット 上(林真理子)

マーガレット・ミッチェルが亡くなって60年が過ぎて原作の版権が切れた2009年以降、『風と共に去りぬ』の新訳や続編が出版されましたが、本書もその1冊。ただし林さんは終始一人称でスカーレットに語らせることによって、有名な原作を再構築し直して…

鬼煙管(今村翔吾)

江戸の町を舞台にする火消し組の活躍を描く「羽州ぼろ鳶組シリーズ」の第4巻ですが、本書の舞台は京都です。京都西町奉行に転任した長谷川平蔵からの依頼で京に呼ばれた松永源吾らが挑むことになるのは、奇怪な連続付け火事件でした。全く火の気のないとこ…

グラーフ・ツェッペリン(高野史緒)

著者の出身地である土浦を舞台にして、少年と少女の奇妙な出会いが世界を変えてしまう、青春SF物語。2021年、土浦二高に通う女子高生の夏紀の世界は、月や火星の開発は進んでいるもののインターネットは普及していません。しかも夏紀の周囲では電子通…

冬将軍が来た夏(甘耀明)カン・ヤオミン

1972年に生まれた台湾人作家である著者の作品は今までに、少年時代の記憶を幻想的に描いた短編集『神秘列車』や、戦中戦後の動乱期をマジックリアリズム的に描いた長編『鬼殺し』を読んでいます。しかし本書は現代の台中を舞台にして、ひとりの若い女性…

知られざる北斎(神山典士)

昨年秋に小布施の岩松寺と北斎館を訪問したこともあって、本書を手に取ってみました。前半はモネやゴッホらの印象派画家たちが北斎に魅せられた理由と、北斎を海外にプロデュースした画商・林忠正の足跡をたどる物語。林忠正は、原田マハさんの『たゆたえど…

子宝船 きたきた捕物帖2(宮部みゆき)

『本所深川ふしぎ草紙』や『ぼんくら』や『桜ほうさら』と地続きの世界である江戸深川を舞台として、文庫屋で岡っ引き修行中の北一と謎めいた凄腕の相棒である喜多次の「きたきた」コンビが活躍する大江戸ミステリの第2弾。喜多次の正体も、文庫の絵を描い…

きたきた捕物帖(宮部みゆき)

『本所深川ふしぎ草紙』や『ぼんくら』や『桜ほうさら』と地続きになっている大江戸ミステリです。岡っ引きの茂七は既に亡く、後を継いだ政五郎親分は引退していますがまだ健在。博覧強記のおでこも成長した姿を見せてくれます。笙之介が住んでいた富勘長屋…

犬義なき闘い(新堂冬樹)

2035年。新型殺人ウィルスに襲われた世界では人口が激減。ゴーストタウンと化した新宿の支配権を掌握したのは、徒党を組んだ犬たちでした。3大勢力となったのは、新宿警察署をアジトとする売る元警察犬ファミリー、歌舞伎町ドンキをアジトとする闘犬フ…