りぼんの読書ノート

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プリンシパル(長浦京)

リボルバー・リリー』の著者による戦後日本のノワール・ストーリーも、主人公は女性でした。関東最大級の暴力組織である水嶽本家の一人娘である綾女は、終戦と父の死によって突然、後継者であった兄たちが戦地から帰還するまで「代行」役となることを余儀なくされてしまいました。もともと家業を嫌って教師となったのに、敵対勢力の襲撃で親しい人々を失ったことが、彼女の復讐心に火をつけたのです。

 

綾女は極道として天性の才能を有していました。壮絶な焼き討ちで敵対勢力を一掃して、身内の裏切り者を冷酷に処刑。組織を近代的な会社組織へと変貌させて、大物政治家を懐柔し、さらにはGHQと手を組んで、瞬く間に首都を支配する巨大勢力へとのし上がっていきます。その一方で義母や実兄などの身内との陰惨な闘いや、愛する者の喪失を繰り返す中で、ヒロポンで気力を奮い立たせてきた綾女の心身は蝕まれていくのでした。

 

明らかにモデルがいる大物政治家たちや、戦後日本を彩った芸能人たちの存在は物語に色を添えますが、彼らと黒い勢力との関係はどこまでが実話なのでしょう。そもそも著者が本書を書いたのは、占領下の日本で全アメリカ人の給料の170%もの金が本国に送金されていたとか、朝鮮戦争の際に元日本兵を戦闘員として供出させられたなどの、GHQによる日本搾取の実態を書きたかったからだと述べています。

 

リボルバー・リリー』や『赤刃』と比較すると市街戦の描写は控えめですが、陰謀と復讐にまみれたダークヒロインの物語は、戦後日本における暴力団と政治家とGHQの暗い関係を見事に描き出しました。エルロイやウィンズロウを彷彿とさせる作品です。

 

2024/2