りぼんの読書ノート

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火の柱 中(ケン・フォレット)

16世紀イギリスを中心とする物語は佳境に入っていきます。王位についたエリザベスへの敵は、スペイン、フランス、ローマなどのカトリック教国だけではありません、国内の貴族たちの中にも多くのウルトラカトリック勢力が叛旗を翻す機会を狙っていたのです。そして彼らが担ぎ出そうとしていたのは、正統な王位系主権を有しながら幽閉状態にあるスコットランド女王のメアリー・スチュアートでした。

 

その中で、イングランド南部のキングスブリッジ出身の2人の男は敵対を深めていきます。セシルに見いだされてウォルシンガム率いる情報機関の幹部になったネッドは、国内・国外の反エリザベスの陰謀を次々とつきとめていきます。その一方でネッドを憎むロロはフランスに渡ってカトリックのギーズ公に近づき、イギリスのカトリック勢力のネットワークを張り巡らせていくのです。ネッドを愛しながらバート伯爵との政略結婚を余儀なくされたロロの妹マージョリーの苦悩は深まっていきます。

 

フランスもまた混乱の渦中に陥っていきます。内戦状態に陥りつつある中で、カトリックのギーズ公もプロテスタントのコンデ公が暗殺されます。寛容な政治を願う太后カトリーヌは、王妃マルゴプロテスタントナバラ公アンリの結婚を決めたものの、それが逆に聖バルトロマイの虐殺を引き起こすことになるのです。そこで暗躍していたのは、ギーズ家に取り入った私生児のピエールでした。

 

本書のテーマは宗教的な寛容と不寛容の問題のようですが、寛容政策が常に平和をもたらすわけでもありません。エリザベス女王は反逆罪で大くの貴族を処刑し、太后カトリーヌはフランスの内乱を止めることができなかったのです。強大な不寛容勢力が存在する時に、寛容な政治が成立しえるのかどうか。現代においてもなお未解決の問題です。

 

2022/8