りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

この世の涯てまで、よろしく(フレドゥン・キアンプール)

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戦後の1949年にベルリンで死んだ青年ピアニストのアルトゥアが、50年後の1999年にハノーバーのカフェに蘇ったところから、物語が始まります。となると、読者の関心は3点。彼はどのように死んだのか。なぜ現代に蘇ったのか。そしてどのように役割を終えるのか。

浮世離れした音大生たちとカフェで知り合って同居を始めたアルトゥアでしたが、蘇ったのが自分だけでないことに気づきます。ひとりはかつて親友だったパヴェルでしたが、もうひとりの謎の幽霊は彼らに敵対し、現実の殺人まで犯すのです。どうやら、その謎の幽霊と決着をつけることが、アルトゥアらの使命のようなのですが・・。

ユダヤ人のアルトゥアと、亡命ポーランド人のパヴェルは、フランスの田舎に隠れ住んで第二次大戦を生き延びることができました。一方、彼らのために生命を落とした人物もいたのです。ではそのことが、謎の幽霊の怒りの理由なのでしょうか。しかし、その幽霊の怒りは、現代ドイツの傲慢な音楽家や、堕落した音楽家に向かっているようなのです。

どうやらアルトゥアらの使命は、謎の怒れる幽霊に「誤り」を気づかせることにあったようです。その幽霊が蘇っていた理由は、芸術を裏切った者に復讐するためではなく、50年前の自分の過ちに気付くためだったのですから。50年前に彼らを、音楽を、理想を裏切った者たちと違うものに復讐することに、意味はないのです。

ピアニストと音大生たちの物語ですから、『のだめカンタービレ』のように、作品中で多くの楽曲が演奏されています。ドイツでは作品に出てくる楽曲を収録したCDも発売されたとのこと。音楽を2次元に写し取ったかのような表紙もお洒落ですが、実際に音楽を聴きながら読みたいものです。

2015/6