りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

東京ゴースト・シティ(バリー・ユアグロー)

親日家として知られる著者がオリンピック前夜の東京を訪れて、過去と現在が混在する東京を幻視するエッセイ風の小説です。2018年春に来日してアメリカに帰国後も東京の動向を追いながら綴った作品ですが、当初はオリンピックを控えて変貌しつつある大都市へのノスタルジーや、オリエンタリズムに対する滑稽な思い込みの破綻を描きたかったとのこと。

 

東京タワーの真下に居を構えた著者が訪れるのは、有楽町ガード下や銀座のビアホール、迷路網のような地下鉄路線、築地市場豊洲市場、渋谷と原宿、コンビニとデパ地下、浅草と上野、日本橋と江戸博・・。そこで出会うのは過去の東京を懐かしむ幽霊たち。太宰治三島由紀夫坂口安吾永井荷風宮沢賢治らの文人たち、市川崑鈴木清順黒澤明らの映画監督たち、三船敏郎菅原文太植木等らの名優たち。変わったところでは明治時代に帰化した落語家の快楽亭ブラックやB級文化愛仲間の都築響一(生存)も登場。

 

コンマリのミニマリズムの対極とに位置する雑然とした「異形の都市」の失われつつある文化への挽歌が綴られていくのですが、途中から様子が変わってきます。新型コロナウィルスの流行によって東京がゴーストタウンのようになり、オリンピック・パラリンピックは延期され、当初は2020年夏までの予定だった雑誌への連載も、2021年夏まで延長されました。「ああ、恋しい、大好きな。苦しんでいる東京が、幽霊たちさえも」との述懐の結ばれる本書には、著者の東京愛と、新型コロナウィルスへの惨禍に苦しんでいた当時の東京に対する声援が込められています。

 

2024/2