りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2024/2 Best 3

1.真の人間になる 上下(甘耀明 カン・ヤオミン)

戦中戦後の台湾の混乱期をマジック・リアリズム的な手法で描いた『鬼殺し』に対して、本書はより抒情的な作品です。漢民族からは原住民として異類視され、日本人からは被支配者として迫害され、米国人からは敵国人として攻撃されたブヌン族のハルムト少年に注ぎこまれていく、ブヌン族の、アミ族の、日本の、アメリカの物語。戦争直後に台湾の高山に墜落した米軍輸送機を捜索に出た一隊が遭難した「三叉山事件」の当事者となったハルムトの命と心は救われるのでしょうか。彼は激しい怒りを抑制して「真の人間」になれるのでしょうか。死者たちに向かっても「ミホミサン(お元気で、また会おう)」と告げるハルムトは、恨みを超越する物語の力を体現しているようです。

 

2.プリンシパル(長浦京)

父の死によって突然、関東最大級の暴力組織の後継者とされた綾女が、戦後東京の闇社会を生き延びていくノワール・ストーリー。しかし、愛する者たちとの陰惨な闘いや、愛する者の喪失を繰り返す中で、綾女の心身は蝕まれていきます。陰謀と復讐にまみれたダークヒロインの物語は、戦後日本における暴力団と政治家とGHQの暗い関係も見事に描き出しました。エルロイやウィンズロウを彷彿とさせる作品です。

 

3.アミナ(賀淑芳)

1970年にマレーシアの華人家庭で生まれ、祖国と台湾やシンガポールを行き来しながら中国語で執筆活動を続ける著者が生み出す物語には、彼女の半生が詰め込まれているようです。マレー人を優遇するブミプトラ政策が敷かれるマレーシアにおける華人女性の生き方には、越えられない限界があるのです。しかし彼女の作品の主題は、反マレー、反イスラムではありません。著者の矛先が向けられる先にあるのは、個人の生活・信条を規制しようとする権力機構です。

 

【次点】

・冬将軍が来た夏(甘耀明(カン・ヤオミン)

 

【その他今月読んだ本】

・犬義なき闘い(新堂冬樹

・きたきた捕物帖(宮部みゆき

・子宝船 きたきた捕物帖2(宮部みゆき

・知られざる北斎(神山典士)

グラーフ・ツェッペリン高野史緒

・鬼煙管(今村翔吾)

・私はスカーレット 上(林真理子

・私はスカーレット 下(林真理子

・ミセス・ハリス、パリへ行く(ポール・ギャリコ

・ミセス・ハリス、ニューヨークへ行く(ポール・ギャリコ

・マルドゥック・アノニマス 8(冲方丁

・書架の探偵、貸出中(ジーン・ウルフ

・廉太郎ノオト(谷津矢車)

・東京ゴースト・シティ(バリー・ユアグロー

・菩薩花(今村翔吾)

・すみれ荘ファミリア(凪良ゆう)

 

2024/2/29