りぼんの読書ノート

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廉太郎ノオト(谷津矢車)

これまで江戸時代を主戦場としてユニークな人物像を造形してきた著者が、「明治日本に西洋音楽を響かせることを夢見た早逝の天才の軌跡」を描き出しました。本書の主人公は「荒城の月」や「花」や「箱根八里」などの歌曲や「お正月」や「鳩ぽっぽ」や「雪やこんこん」などの唱歌で知られる滝廉太郎です。

 

1879年(明治12年)に旧豊後国日出藩の家老の家に生まれた廉太郎が、早くから音楽に関心を抱いていたのは、やはり結核で早逝した姉の影響だったのでしょうか。15歳で上京して東京音楽学校に入学。幸田延や橘糸重やケーベルに付いてピアノを専攻。本書では、幸田延の妹で1才年長の天才ヴァイオリストであった幸田幸を終生のライバルとして切磋琢磨し合ったことを軸にして、廉太郎の成長を描いています。後に廉太郎が作曲した多くの唱歌を作詞した東くめは、幸田幸の同級生ですね。

 

ドイツ留学の最中に結核を発病し、帰国後まもなく24歳の若さで亡くなってしまいましたが、西洋音楽を消化して日本に根付かせた廉太郎の功績は小さくありません。彼の後には声楽家三浦環や、伊沢修二山田耕筰中山晋平などの作曲家が続くのですから。

 

本書は2021年の第66回青少年読書感想文コンクールの課題図書に選ばれています。確かに「天才とは天井を破る者」とかの表現や、ライバル幸田幸との男女の垣根を越えた友情など、中高生に響く本でもあるのですが、著者はそんなことを意識して書いた訳ではないのでしょう。ただし多感な時期の青年の生涯から、恋愛という大きな要素を取り除いてしまったことは、少々不憫に感じてしまいます。

 

2024/2