りぼんの読書ノート

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書架の探偵、貸出中(ジーン・ウルフ)

『書架の探偵』の続編にあたるSFミステリです。主人公は前作と同様に、生前は推理作家であったE・A・スミス。オリジナルの人格と記憶を継承して複製された彼はクローンであって、単なる記憶媒体ではありません。呼吸も食事も排泄もセックスもする生きた人間であり、独立したアイデンティティを有しています。それでも彼の身分は図書館の蔵書と同じなのです。書架に居場所を与えられて利用者に貸し出されることを待ち望み、利用頻度が低下すれば焼却処分が待ち受けています。いわばテクノロジーが産み落とした奴隷といえるでしょう。そのあたりは前作よりも踏み込んだ記述がされています。

 

今回スミスは、同じ境遇の料理本作家リリーとロマンス作家ローズと一緒に、図書館間相互貸借の制度によって、海沿いの村の図書館に移送されました。精神を病んだ母親と暮らす少女チャンドラに借り出され、何年も前に姿を消した彼女の父親探しを頼まれるのですが、手がかりは解剖学教授だった父親が残した革装の本に貼り付けられた「死体の島」の地図だけ。それでも彼らは生きている父親を発見。しかもリリーとローズを借り出していたのは父親だったのです。

 

極寒の島に保存されている「生き返る死体」や、母親の寝室に忍び込む黒い影や、熱帯雨林のような場所へと通じる鋼鉄のドアや、勝手に増殖する家など、オカルト的なガジェットも登場しますが、これらは科学的な発明品なのでしょう。そういえば前作でも火星が舞台になっていました。しかし著者の死によって本書は未完のままで終わってしまいます。熱烈なファンにとっては遺稿の断片でも貴重なのでしょうが、一般読者を対象に未完本を出版するのはどうなのでしょう。確かに「未完の遺作」と紹介されてはいたのですが、全体のプロットくらいは完成しているものだとばかり思っていました。さすがにこの本はお薦めできません。

 

2024/2