りぼんの読書ノート

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ふたりの証拠(アゴタ・クリストフ)

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悪童日記の後日譚になりますが、前作で名前のなかった双子の兄弟に名前が与えられ、物語は三人称で綴られていきます。しかし、感情を顕わにせずに深い絶望を描いていくスタイルは前作と共通しています。

祖母も父親も失い、兄弟にも去られて一人残されたリュカは、息苦しい共産主義国家の中で、孤独にしかし力強く生きていきます。彼を支援してくれる、信者を失った老いた神父も、本を書く夢を見ながらアルコールに溺れる書店主ヴィクトールも、ホモセクシュアルの地方共産党幹部ペテールも、ハンガリー動乱へと進んでいく歴史の中では無力な存在でしかありません。

やがてリュカは、父親と近親相姦の子を産んで路頭に迷う少女ヤスミーヌと、彼女の息子で不具のマティアスという同居人を得ることになります。しかし物語は、不幸な3人が支えあうという方向には進んでいきません。リュカはマティウスを自分の分身のように愛するものの、無実の夫を処刑された年長の図書館司書クララに惹かれてしまうのです。まずは母親ヤスミーヌが、次いで息子マティアスがリュカのもとを去っていくのですが、それはリュカの大きな秘密だったのです。そして最終章、30年後に故郷を訪れたクラウスが、リュカと再会することはなかったのです

最終章を読む限りは、悪童日記も本書も、「鉄条網に包囲された国」に残ったリュカが、国境を越えて西側へと向かったクラウスを思いながら書き綴った物語のようです。しかし本書は3部作の第2作であり、最終作のタイトルが第三の噓であることを考えると、やはりシンプルな解釈は許されないようです。

2018/4