1956年のハンガリー動乱の際に西側に亡命した著者が、1986年に著した「異形の小説」です。第二次大戦末期、おそらくハンガリーであろう国家の首都から、西側と国境を接する村に一人で住む祖母のもとに疎開してきた双子の少年が「一人称複数形」で綴った日々の物語。
本書で描かれる少年たちは、無垢でも健気でもありません。生き延びるためとはいえ、盗みや強請り、祖母の家を間借りしているドイツ人将校への性的サービス、さらには傷害事件まで起こして、したたかに生き抜いていくのです。その背景には、世間から「夫殺しの魔女」と呼ばれ、都会へと去った一人娘を否定し、やむなく預かった双子の兄弟を容赦なく働かせる祖母の存在や、欺瞞に満ちた聖職者の行動などもあったのですが。
なにより不気味なのは、少年たちが、近隣者や肉親の死にも感情を表すことなく淡々としていることなのですが、この部分には著者の仕掛けがあるようです。冒頭近くで少年たちは、日記を綴るに際しては「漠然としている感情を定義する言葉の使用を避けて、事実の忠実な描写だけにとどめる」と宣言しているのです。彼らが感情を持たない怪物なのではなく、感情を表現していないだけであることは、念頭にとどめておかなければなりません。
2018/4