りぼんの読書ノート

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マルドゥック・アノニマス 8(冲方丁)

第7巻の冒頭に置かれた葬儀の場面に至る過程が綴られる本巻では、シティを支配する「シザーズ」による精神支配から逃れて独立勢力となったハンターと、「シザーズ」の手先となって「クインテット」を離脱したマックスウェルとの壮絶な死闘が描かれます。

 

ハンター側のエンハンサーは直属の「クインテット」に加えて、治癒再生能力を有するホスピタルを中心とする「ガーディアンズ」、何度も死地をかいくぐってきた「ウォーウィッチ」の魔女たち、武器密売グループの「プラトゥーン」、ギャングあがりの「シャドウズ」、肉体強化を極めた「ビリークラブ」、海を支配する「マリーン・ブラインダーズ」、探索に優れた「スネークハント」、変身のプロである「クライドスコープ」、そして「カトル・カール」の生き残りで電子戦を得意とするスケアクロウ

 

マックスウェル側のエンハンサーは、睡眠障害で人々を操るサディアス・ガッターや電子戦のプロであるリックを擁する「Mの子たち」、昆虫と毒を操る「ポイズンスカッド」、シェイプシフター集団である「ミートワゴン」ら、そして彼らを操るのは「シザーズ」の要人であるネルソン・フリート市会議員。シティへの労働力供給源であるマルセル島を舞台とする異能力者らの総力戦は迫力十分でしたが、勝利者となったのはハンターでした。共感能力で支配したネルソンの後継者としてハンターが市会議員に就任したことは、前巻の冒頭シーンで綴られていましたね。権力の座に一歩近づいたハンターの闘いの舞台は、政治・経済・法律の分野にレベルアップしていくのでしょう。その一方で「シザーズ」の女王であるナタリア・ボイルドへの接近を試みようとしています。それにしても登場人物が多すぎる!

 

総力戦の過程でホスピタルが指導者としての優れた能力を見せたこと。エンハンサーの異能を移植してダブルギフトの持ち主にできること。能力を奪われたエンハンサーは廃人となってしまうこと。ハンターの腹心であるバジルとシルヴィアが微笑ましい相思相愛関係となったこと。「シザーズ」メンバーの末路は「女王の宮殿」か「虚無の海」であること。仲間を失った「シャドウズ」のジェイクがハンターの手先としてバロットに保護を求めたこと。かつて妻子を惨殺されたモーモント議員が「イースターズ・オフィス」と「薬害集団訴訟」サイドの政治家として再起を果たしたこと。こういった事柄は後に重要な意味を有してきそうです。

 

本巻のラストは、前巻冒頭の葬儀シーンに立ち戻ります。葬られた人物は明らかにされますが、なぜバロットは犯人との容疑をかけられているのか。彼女は聴衆の前で何を語るのか。次巻では物語が大きく展開していきそうです。本巻では出番が少なかったバロットの活躍シーンも見たいですし。

 

2024/2