りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

書架の探偵(ジーン・ウルフ)

イメージ 1

SF・ファンタジーの大家である著者が、2015年に本書を著したときは84歳。「人間をできる限り本に近づけたらどうなるか」との発想から、亡くなった作家の記憶を植え付けた「複生体(リクローン)のアイデアが生まれたそうです。作家の複生体は図書館の「書架」に置かれ、利用者によって借り出し可能。新たな本を書くことは許されず、利用者が少なくなったら廃棄処分されるという悲しい運命。

本書の主人公である推理作家E・A・スミスの複生体が、コレットと名乗る令嬢に借り出されるところから物語が始まります。父に続いて兄を亡くしたコレットは、兄から死の直前にスミスの著作「火星の殺人」を手渡されており、この本に兄の不審死の秘密が隠されているのではないかと言うのです。しかしコレットも何者かによって誘拐されてしまい、スミスは独力で捜査を開始することになってしまいます。

どこからか巨大な富を生み出したコレット父の秘密や、父の屋敷の開かずのドアが導く不思議な世界や、それらの秘密を負う謎の男たちの正体、そして父と兄の死の真相はいずれも意表を衝いてくれますが、やはり最大の奇想は「作家の複生体」ですね。

E・A・スミスの名前は、もちろん『レンズマン』のE・E・スミスを思わせますし、やはち複生体となっている元恋人の詩人アラベラ・リーは、E・A・ポーの恋人アナベル・リーから来ています。「火星の殺人」という架空の著作はE・R・バローズの「火星シリーズ」の1冊と言われても信じてしまいそう。ついでにコレットの父の名前はコンラッドでした。本書は過去の作家たちへのオマージュでもあるのです。

2018/4