りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

すみれ荘ファミリア(凪良ゆう)

2020年に『流浪の月』で本屋大賞を受賞した著者が、2018年に著した家族と疑似家族の物語は、人々の裏の顔を暴き出すと同時に、それを越える人間関係のあり方を提示しているようです。

 

下宿すみれ荘の管理人を務める病弱な一悟は、気心知れた入居者たちと家族のように暮らしながら、慎ましやかな日々を送っています。そこに強引に入り込んできた芥と名乗る小説家は、どうやら両親の離婚で幼いころに生き別れた弟のようなのですが、なぜか正体を明かしません。芥の思惑は不明なまま、言葉を飾らない芥の存在に触発されて、周囲の人々の思わぬ一面が露わになっていくのですが・・。

 

重いPMSで人生の半分ほどを絶不調で過ごす美寿々は、何を求めてチャラい男たちと刹那的な付き合いを繰り返しているのか。テレビ局の下っ端ディレクターとして過酷に働く隼人は、何をコンプレックスに感じているのか。一悟の亡妻の姉で花屋に勤める下宿最古参の青子が抱えていたおぞましい秘密とは何なのか。一悟たちの母は別れた夫と息子たちをどのように思っていたのか。そして一悟と芥は兄弟の絆を復活させることができるのか。

 

著者も自分のことを「すみれ荘の住人」だと語っています。人はそれぞれ多面的な存在であるということなのでしょう。ただし、どの面を表に出し、どの面を隠すかという選択まで含めたものが自分自身の総体ではないかと思うのです。時には救いとなり、時には毒ともなる愛のように。

 

2024/2