りぼんの読書ノート

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獅子の門6 雲竜編(夢枕獏)

「スーパーバイオレンス格闘小説」の第6巻では、若手格闘家たちが結集した武林館トーナメントが、佳境に入っていきます。武林館期待の若手・加倉文平を倒した巨漢・室戸武志と決勝戦を戦うことになるのは、刃物のような志村礼二と、無尽蔵のスタミナを有する芥菊千代のどちらになるのでしょう。かつて志村の反則負けに終わった因縁の再戦は、またしても壮絶な死闘となり、誰もが予想しえなかった結末へと至ります。

 

その一方で、K1がモデルのようなNKトーナメントが開催され、菊千代の師である鳴海や、彼の宿命のライバルである麻生らが出場。過去に優勝経験があり本命視されていた外国人格闘家らを破って、決勝に進出したのは、この2人でした。格闘場面の描写は凄まじいのですが、それだけでは小説は成り立ちません。おのずと両者の因縁や、過去の体験などが挿入されていきます。しかし因縁や体験というストーリー性だけで勝負がつくのもでもないのです。では勝負を決めるものは何なのでしょう。それこそが、このシリーズの最初からのテーマなのかもしれません。

 

新たに2人の格闘家が登場してきます。ひとりは鳴海の師であった天城の新たな弟子となった鹿久間源。柔道師範であった天城の表の技を学んだのが鳴海であるなら、暗い一面を有していた天城の裏の技を学んだのが鹿久間でした。ダークな技の使い手でありながら飄々とした性格を有する鹿久間というキャラには、著者も魅せられたようで、このシリーズが若手たちの「武林館トーナメント」で終わらなかった理由のひとつだそうです。もうひとりは古いタイプの柔術家である鬼頭準之介であり、どことなくシリーズの悪役である久我重明に似た雰囲気の持ち主です。物語は当初の著者の構想を超えて転がり続けていくようです。

 

2022/11