マーガレット・ミッチェルが亡くなって60年が過ぎて原作の版権が切れた2009年以降、『風と共に去りぬ』の新訳や続編が出版されましたが、本書もその1冊。ただし林さんは終始一人称でスカーレットに語らせることによって、有名な原作を再構築し直して…
江戸の町を舞台にする火消し組の活躍を描く「羽州ぼろ鳶組シリーズ」の第4巻ですが、本書の舞台は京都です。京都西町奉行に転任した長谷川平蔵からの依頼で京に呼ばれた松永源吾らが挑むことになるのは、奇怪な連続付け火事件でした。全く火の気のないとこ…
著者の出身地である土浦を舞台にして、少年と少女の奇妙な出会いが世界を変えてしまう、青春SF物語。2021年、土浦二高に通う女子高生の夏紀の世界は、月や火星の開発は進んでいるもののインターネットは普及していません。しかも夏紀の周囲では電子通…
1972年に生まれた台湾人作家である著者の作品は今までに、少年時代の記憶を幻想的に描いた短編集『神秘列車』や、戦中戦後の動乱期をマジックリアリズム的に描いた長編『鬼殺し』を読んでいます。しかし本書は現代の台中を舞台にして、ひとりの若い女性…
昨年秋に小布施の岩松寺と北斎館を訪問したこともあって、本書を手に取ってみました。前半はモネやゴッホらの印象派画家たちが北斎に魅せられた理由と、北斎を海外にプロデュースした画商・林忠正の足跡をたどる物語。林忠正は、原田マハさんの『たゆたえど…
『本所深川ふしぎ草紙』や『ぼんくら』や『桜ほうさら』と地続きの世界である江戸深川を舞台として、文庫屋で岡っ引き修行中の北一と謎めいた凄腕の相棒である喜多次の「きたきた」コンビが活躍する大江戸ミステリの第2弾。喜多次の正体も、文庫の絵を描い…
『本所深川ふしぎ草紙』や『ぼんくら』や『桜ほうさら』と地続きになっている大江戸ミステリです。岡っ引きの茂七は既に亡く、後を継いだ政五郎親分は引退していますがまだ健在。博覧強記のおでこも成長した姿を見せてくれます。笙之介が住んでいた富勘長屋…
2035年。新型殺人ウィルスに襲われた世界では人口が激減。ゴーストタウンと化した新宿の支配権を掌握したのは、徒党を組んだ犬たちでした。3大勢力となったのは、新宿警察署をアジトとする売る元警察犬ファミリー、歌舞伎町ドンキをアジトとする闘犬フ…
1.フリアとシナリオライター(マリオ・バルガス=リョサ) ラテンアメリカを代表するノーベル文学賞受賞作家が1977年に発表した本書は、半自伝的な青春小説であるとともに、スラップスティック濃度の濃いコメディタッチの作品です。まだ大学生の身であ…
時代小説の中で圧倒的に多いのは江戸を舞台にする作品です。江戸の地図が頭に入っているとわかりやすいことも多いのですが、そんな目的にぴったりの一冊です。各章の図解に附属している浮世絵も楽しめます。ただ各章の見出しに「!」が多すぎる! 「序章」 …
1898年に60歳で暗殺者の凶刃に倒れたオーストリア皇妃エリザベートは、「民衆に慕われた皇后」との伝説を遺しました。ウィーンのホーフブルク宮殿の一画が、彼女の生涯をたどる「シシィ博物館」となっているほど、今でも人気の高い人物です。しかし義…
尾道に生まれ育ち少女の頃から「ミステリ」と「メルヘン」を愛した著者は、やがて英文学研究者となり、故郷の大学で教鞭をとりながら創作を続けました。ケルト伝説に想を得た『銀の犬』も、ホメロス世界を描き直した『イオニアの風』も、尾道で起こった小さ…
ラボから脱走したうさぎが、野たぬきの犯罪団とともに押し入った牛舎で饒舌なねずみや自分本位な犬と出会う中で愛する者の存在に気付いて、まだラボに捉えられているメスうさぎを救いにいくという寓話です。はじめにうさぎによって語られる物語が、さまざま…
イタリア・ルネサンス期のルクレツィアというと、マキャベリの「君主論」のモデルとなったチェーザレ・ボルジアの妹を想起する人が多いでしょう。ローマ教皇アレクサンデル6世となった父親や兄の政治的陰謀に巻き込まれたとされるファム・ファタールです。…
「幻想シリーズ」をはじめとする不思議な物語を得意としてきた著者ですが、最近は不思議を封印した作品も多いようです。ジャンルもの作家から脱却しつつあるのでしょうか。 新型コロナ蔓延による緊急事態宣言が発令された日、乃亜は夫のユキオに失踪されてし…
江戸時代後期に活躍した女性漢詩人の原采蘋は、秋月藩の高名な儒学者・原古処の娘であり、男装で旅をしていたとのこと。葉室麟の『秋月記』にも脇役として登場しています。著者は采蘋の旅日記が秋月から江戸を目指す途中で途絶えていたことと、この時期に秋…
シリーズ化されている『ばけもの好む中将』のスピンオフ作品です。本編の主人公である左近衛中将宣能は、ばけものとの出会いを待ち望みつつ都の怪事件を追い続けるものの、実際は人為的な策略か錯覚ばかり。しかし本書の主人公である「今源氏」と噂される色…
浮世絵研究の第一人者である牧野健太郎氏の『浮世絵の解剖図鑑』を読み、講演も聞いたところで、浮世絵関係の作品を読みたくなりました。牧野氏に歌麿は滅法いい男だったとのことですが、本書ではそれに加えて剣の遣い手でもあったとされています。そのあた…
ラテンアメリカを代表するノーベル文学賞受賞作家が1977年に発表した本書は、半自伝的な青春小説であるとともに、スラップスティック濃度の濃いコメディタッチの作品です。 著者の分身である主人公マリオが18歳ですから、本書で描かれた時代は1950…
人類が星々へと拡散した遠未来。女性同士の恋愛が許されない故郷の巨大ガス惑星を飛び出した2人の少女は銀河の文明圏を目指します。厳密には密航状態の2人が予想外のトラブルや生活の課題に次々と見舞われるのは当然として、安住の地を目指すテラとどこま…
遠い未来。宇宙に進出した人類の中でもとりわけ辺境のガス惑星FBBで暮らす人々は周回者と呼ばれ、特殊な方法で生計を立てつつも古典的な風習を守り続けていました。巨大ロケットで巨大宇宙魚を捕獲する宇宙漁技術を編み出したものの、その船を操れるのは…
南北戦争後1871年のニューヨークは、活気と混乱に満ちた大都会でした。ヨーロッパ各地からの移民が急増する中で、『ギャング・オブ・ニューヨーク』にも登場する悪徳政治家ビル・トゥイードが贈収賄と暴力で市政を牛耳っていた時代だったのです。 そんな…
『素数の音楽』や『シンメトリーの地図帳』で数学への興味を沸かせてくれ、『知の果てへの旅』で現代知識の最前線を、『レンブラントの身震い』でAIの到達点について解説してくれた著者の新刊のテーマは「近道術」でした。膨大な総当たり計算を瞬時にこな…
次々と持ち主を変える「ルイ・ヴィトンの高級財布」を巡って、お金に踊らされる人たちの姿を描いていく連作小説です。そんな説明だとありがちな趣向に思えてしまいますが、本書はよくできています。『三千円の使いかた(未読)』を大ヒットさせた著者の力量…
1392年から1910年まで続いた李氏朝鮮王朝を舞台とする、歴史改変スチームパンク年代記は、5人の韓国SF作家による連作です。歴史の転換期で暗躍する謎の回回人都老(トロ)の基本設定と、巻末に付された年表作成者は、あみだくじで決められたとの…
芥川賞受賞作『火花』と第2作『劇場』はいずれも中編でした。第3作の本書は新聞に連載された著者初の長編小説ですが、過去2作のような密度を保ち続けることには成功しています。ただし、長編で密度を高く保ち続けることの是非は、また別の問題です。 視点…
小説とは「満を持してようやく少しだけ書ける小さくて素朴な物語」だという韓国の作家が、手のひらに書かいてみたようなシンプルな単語を原型として紡ぎあげた掌編集です。そこに書かれているのは、「絶望的で悲しい社会現象である暴食、爆笑、暴力の時代を…
2023年に読んだ本は288作品。平均よりも少し多かったかな。じっくり腰を据えて読むべき重厚な作品から、軽妙な作品まで、幅広く読んだ印象です。ともあれ、今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみましょう。 ・長編小説部門(海外):…
1.鏡と光 上下(ヒラリー・マンテル) ヘンリー8世の寵臣として、イングランドの宗教改革や絶対王政の確立に大きく貢献したトマス・クロムウェルの生涯について、正面から向き合った3部作の最終巻。アン・ブーリンの登場とトマス・モアの処刑までを描い…
「プラン」という国際NGO団体があります。その目的は「子どもの権利が守られ、女の子が差別されない公正な社会を実現する」ことなのですが、2000年以上も変わらなかった習慣を、変えていくことは可能なのでしょうか。「プラン」から依頼を受けて開発…