りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2015-01-01から1年間の記事一覧

女のいない男たち(村上春樹)

村上春樹さんの9年ぶりの短編集は、『東京奇譚集』と同様に「コンセプト・アルバム」になっていました。しかし「女のいない男たち」とは、なんとストレートなタイトルなのでしょう。村上さんの多くの作品のテーマが「女性を失った男性の物語」なのですから…

大いなる眠り(レイモンド・チャンドラー)

「フィリップ・マーロウ・シリーズ」の第1作であり、ハードボイルド史上の古典ともなっている作品です。「軽妙な語りを得意とする主人公、裏がありそうな依頼、謎めいた美女からの誘い、探偵への脅迫と暴行、無関係に見える連続殺人事件、ほろ苦い真相」と…

高い窓(レイモンド・チャンドラー)

村上春樹さんによるチャンドラーの新訳の5冊めです。チャンドラーの長編は7作あるとのことですが、全部の翻訳を試みるつもりであることが巻末に記されていました。残り3冊の新訳を、楽しみに待ちましょう。 私立探偵フィリップ・マーロウの今度の仕事は、…

岳飛伝 12(北方謙三)

梁山泊水軍総帥の張朔との決戦に敗れた後の韓世忠は、南宋宰相の秦檜からも見放されたようで、ほとんど海賊状態ですが、梁山泊の商船を何艘も沈めるようでは捨て置けません。実戦から遠ざけられていた李俊が、韓世忠退治に名乗りを上げます。水軍の次の焦点…

岳飛伝 11(北方謙三)

金の兀朮が率いる10万の騎馬軍が、ついに梁山泊の呼延凌軍と全面対決。ともに多くの将兵を失う激戦が繰り広げられますが、またしても決着はつきません。もはや、戦闘で何かの決着がつくような時代ではなくなっていることを象徴しているかのようです。 南方…

プラダを着た悪魔リベンジ!(ローレン・ワイズバーガー)

前作『プラダを着た悪魔』の10年後の物語。ファッション誌「ランウェイ」の鬼編集長ミランダのもとを去ったアンドレアには、さまざまなことがありました。 やはり「ランウェイ」を退職していた先輩のエミリーと再会して気まずい雰囲気を味わったものの、今…

クロニクル4.最後の罠(リチャード・ハウス)

シリーズ最終作となる第4部は、再びイラクにおける不正事件へと戻ってきます。ただし本書の主人公は逃亡を続けるサトラーでも、彼を追う使命を課せられたパーソンでも、不正焼却で健康被害を受けたレムでも、第1部で行方不明になったエリックでもありません…

クロニクル3.ある殺人の記録(リチャード・ハウス)

イラク復興計画に関連する不正事件を描いた『第1部・トルコの逃避行 』と『第2部・砂漠の陰謀』の続編は、「作中作」へと一転します。 本巻のタイトルである「ある殺人の記録」とは、第1部で行方不明になったアメリカ人青年エリックが読んでいた本であり…

クロニクル2.砂漠の陰謀(リチャード・ハウス)

『第1部.トルコの逃避行』で、サトラーが犯人とされた、アメリカのイラク軍事基地を建設する民間企業HOSCOを舞台にした横領事件は、奥の深い陰謀でした。第1部の前日譚である本書では、陰謀の別の側面が描かれていきます。 本書の主人公は、やはりH…

クロニクル1.トルコの逃避行(リチャード・ハウス)

イラクの砂漠に軍事基地を建設する大プロジェクトの現地責任者を務める英国人のサトラーは、問題が発生したために現地を去るように言い渡されます。しかし、それは罠でした。サトラーは、彼が訪れた先で起こった爆発事件と、巨額の横領事件の犯人として、追…

笹の舟で海をわたる(角田光代)

本書の主人公である左織は、昭和8年(1933)生まれ。終戦から10年たった昭和30年、22歳の左織は「疎開先が一緒だった」という風美子から声をかけられ、2人の女性の長い関係が始まります。実は、風美子が左織と出会ったのは、偶然ではありません…

闇の王国(リチャード・マシスン)

老境に入ったベストセラー作家の回想というスタイルで書かれた作品です。第一次世界大戦の塹壕で出会った戦友の遺志に従って、彼の故郷であるイングランド中部の村を訪れた青年が、不思議な体験をする物語。「恐怖の数々」とか「この世のものならぬ怪異」の…

包囲(ヘレン・ダンモア)

1941年9月。ナチス・ドイツ軍によって完全包囲されたレニングラード。厳寒と飢餓が牙を剥く極限状況。スターリンの圧政とヒットラーの包囲という二重苦のもとで、歴史上もっとも絶望的な冬を生き抜いた恋人たち・・というと、思い切りドラマチックな展…

2015/10 歩道橋の魔術師(呉明益)

「読書の秋」にもかかわらず、読書量が落ちています。理由は明白。読書に割く時間が減っているから。秋は眠い! 1.歩道橋の魔術師(呉明益) かつて台北に存在していた一昔前の巨大ショッピングモールで育った少年の記憶は、マジック・リアリズムの世界の…

ふたつのしるし(宮下奈都)

者が息子をモデルとしたという少年ハル。自分が興味のあることしか目に入らないせいで周りと違ってしまう、「生きにくい」タイプの子。そんな子が「幸せになれる、喜びを見出せる世界を書きたい」という思いで書き始めた小説だそうです。 「愛する人を見つけ…

歩道橋の魔術師(呉明益:ウー・ミンイー)

1961年から1992年まで台北に、「中華商場」という巨大ショッピングモールが存在していたとのこと。本書は、8棟の建物に1000軒以上の商店があったという「中華商場」が舞台であった少年期の思い出を綴った連作短編集です。 といっても、「三丁目…

首折り男のための協奏曲(伊坂幸太郎)

7つの異なる物語による「協奏曲」は、どのようにリンクしているのでしょう。何が共通するテーマなのでしょう。伊坂さんのテクニックを楽しめる連作短編集です。 「首折り男の周辺」 首を折る手口で殺人を繰り返す殺し屋の存在をめぐって、隣人を「首折り男…

檀(沢木耕太郎)

妻子を顧みず愛人と生活した日々を私小説風に描いた『火宅の人』は、無頼派作家・檀一雄の代表作となっています。しかし、そのモデルであった妻は、実生活の暴露をどう思っていたのでしょう。そして、最終的に愛人と別れた夫を、なぜ許すことができたのでし…

最後の嘘(五十嵐貴久)

吉祥寺のコンビニでアルバイトをしながら探偵業を営む「バツイチ・息子アリ」の川庄を主人公とする、シリーズ第2弾。主人公のキャラのせいなのか、時代の要請なのか。『交渉人・遠野麻衣子シリーズ』とは異なり、なんとなくユルメの作品になっているようで…

悲嘆の門 下(宮部みゆき)

下巻に入って、物語は疾走感を強めていきます。悲惨な事件に対する義憤に駆られた孝太郎は、異界から訪れた怪物・ガラに助力を求めて「力」を得るのですが、それは何をもたらすのでしょう。なぜかガラは孝太郎に対して何度も謝り、「狼」となっていたユーリ…

濱次お役者双六 五ます目 長屋狂言(田牧大和)

江戸の文政期を舞台にして大部屋女形・濱次の成長を描くシリーズの第5作。前作の『半可心中』では「ます目」が消えていたので不思議に思いましたが、今回は順番通りの「五ます目」です。まだ「上がり」というわけではありませんでした。 「代役」で好演を博…

妖怪探偵・百目2(上田早夕里)

人類の前に公然と姿を現した妖怪たちと人間が、打算と駆け引きによって共存している境界の街・真朱。絶世の美女にして全身の眼で真実を見透かす探偵・百目と、頼りない人間の助手・相良邦雄が、「人間性の限界」を探るような事件に挑む物語。 と思っていたら…

妖怪探偵・百目1(上田早夕里)

『魚舟・獣舟』の短編「真朱の街」の続編という立てつけです。人類の前に公然と姿を現した妖怪たちと人間が、打算と駆け引きによって共存している境界の街・真朱。 そこで探偵事務所を営むのは、絶世の美女にして全身に百の眼を持つ妖怪・百目。彼女の眼は、…

ひと呼んでミツコ(姫野カオルコ)

2014年1月に直木賞を受賞した著者のデビュー作です。20代のころに書いて、自分で出版社に持ち込んで門前払いされながらも自信を失うことなく、別の出版社では即決されたという「伝説」も紹介されていました。 主人公はミツコ。私立薔薇十字女子大英文…

ばいばい、アース 1.理由の少女(冲方丁)

地には花。空には聖星。猫や蛙、鼠などさまざまな動物のかたちを纏って生まれてくる人々。「不思議の国」のような世界にたったひとり、牙も毛皮も鱗もない「のっぺらぼう」として生まれた少女、ラブラック=ベル。異形の存在である少女は、自分と同じ存在を…

ツナグ(辻村深月)

一生に一度だけ死者との再会を叶えてくれる「使者(ツナグ)」に依頼する人たちは、何を期待していたのでしょう。 突然死したアイドルを心の支えにしていたOLは、生きる気力を失いかけていました。年老いた母に癌を告知できなかった中年男性は、母に愛され…

ハワード・ヒューズ(ジョン・キーツ)

映画「Catch me if you can」の原作である『世界をだました男』に続いて、やはりディカプリオが主演した「アビエイター」の原作と思しき作品を読んでしまいました。もちろん偶然です。 父親が遺した会社と財産をベースとする億万長者として、映画と飛行機に…

世界をだました男(フランク・アバネイル/スタン・レディング)

ディカプリオ主演で映画化された「Catch me if you can」の原作です。「20世紀最大の詐欺師」と呼ばれた男、フランク・アバネイルの半生記。こんな人が1960年代に実在していたのですね。 あるときはパンナムの副操縦士として、コックピットに出入りす…

突然ノックの音が(エトガル・ケレット)

ピストルを持つ見知らぬ男に「話をしてくれ」と脅される作家、孤独をまぎらわすように毎晩寝場所を変える男、人の言葉をしゃべる金魚、自爆テロで命を落とした末期がん患者、疲れ果てた神様の本音、安息日に食べるチーズ抜きのチーズバーガー・・。 イスラエ…

鳥と雲と薬草袋(梨木香歩)

『家守綺譚』や『海うそ』など、「人と土地の結びつき」を描いてきた著者による「地名エッセイ」です。 タイトルの「鳥と雲」は理解できますが、「薬草袋」が謎ですね。著者は本書を「旅に持ち歩く薬草袋のなかの、いい匂いのハーブのブーケや、愛着のある思…