りぼんの読書ノート

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女のいない男たち(村上春樹)

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村上春樹さんの9年ぶりの短編集は、東京奇譚集と同様に「コンセプト・アルバム」になっていました。しかし「女のいない男たち」とは、なんとストレートなタイトルなのでしょう。村上さんの多くの作品のテーマが「女性を失った男性の物語」なのですから。

「ドライブ・マイ・カー」
若い女性をドライバーとして雇った初老の俳優が、亡くなった妻の思い出を語ります。女優だった妻は時折、共演した相手と不倫していたというのです。妻の死後、妻の不倫相手だった男と奇妙な友情を結んだという男の本意はどこにあったのでしょう。

「イエスタデイ」
友人から、自分のガールフレンドとつきあうように依頼された「僕」は、一度だけデートをしたものの、それ以上の関係に至ることはありませんでした。その直後に友人は失踪、16年後、その女性と再会した「僕」は、友人が失踪した理由を理解できたように思います。

「独立器官」
52歳になってはじめて恋に落ちた医師は、なぜ朽ちるように亡くなったのでしょう。恋した相手が、最低の行動をとった時の「絶望感」は理解できなくもありませんが、もともと「妄想」の上に何かを積み重ねられても、普通は迷惑なだけですよね。

シェエラザード
前世がやつめうなぎだったり、思春期に「愛の盗賊」として空き巣をしていたという物語を語る女性は、中年の専業主婦にすぎません。しかし男は、彼女が語る物語にからめ捕られてしまったようです。それは読者も同じです。彼女の話の続きは、どうなるのでしょう。

「木野」
正統派の「村上春樹作品」です。妻と同僚の浮気を発見して、離婚・退職した男が開いたバーは、猫にとっても、不思議な男にとっても、そして邪悪な存在にとっても居心地のよすぎる場所だったようです。まず猫がいなくなり、蛇たちが姿を見せ始めたとき、男はしばらく身を潜めるように忠告されるのでした。ちなみに、このバーは「ドライブ・マイ・カー」に登場するお店です。

「女のいない男たち」
文中のこの言葉が、本書のすべてを語っています。「女のいない男たちになるのはとても簡単なことだ。一人の女性を深く愛し、それから彼女がどこかに去ってしまえばいいのだ」

2015/11