りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ツナグ(辻村深月)

イメージ 1

一生に一度だけ死者との再会を叶えてくれる「使者(ツナグ)」に依頼する人たちは、何を期待していたのでしょう。

突然死したアイドルを心の支えにしていたOLは、生きる気力を失いかけていました。年老いた母に癌を告知できなかった中年男性は、母に愛されていた弟に、今に至るまで複雑な思いを抱いていたようです。事故死した親友を嫉妬していた女子高生は、なぜ贖罪を求めるのでしょうか。失踪した婚約者を待ち続ける会社員は、彼女を信じ続けて良かったのでしょうか。

そして、一見して普通の高校生のような「使者」にも、ドラマがありました。彼はなぜ「使者」を継ぐことを決めたのでしょう。彼の両親の謎めいた死にも、複雑な事情がありそうです。

著者は「現代日本で死を書くのは難しい」と述べています。神代から「死を穢れ」としてきた風土の中では、「ベースとなる物語がない」からなのでしょうか。それでも、死が圧倒的な喪失であることは、どの文化にも共通しているのです。1枚だけのチケットなど、使わないほうが良さそうです。

2015/10