りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

独りでいるより優しくて(イーユン・リー)

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天安門事件で将来を閉ざされた女子大生の小艾(シャオアイ)が毒を含み、脳にダメージを負って21年もの入院生活を送った後に、ようやく死を迎えます。当時高校生だった3人の男女は、なぜこの事件に責任を感じて、それぞれに孤独な人生を歩んでいたのでしょう。そして小艾の死は彼らに何をもたらすのでしょう。

親から期待されずに育った泊陽(ポーヤン)は、北京にとどまって小艾の死を見届けました。不動産業者として成功したものの、援助交際で寂しさを紛らわす日々を送っています。偏屈な宗教者である老姉妹に育てられた孤児で、あらゆる他者を怖れつつ蔑すんでいる如玉(ルーユイ)は、米兵と結婚して渡米後に離婚。定職を持たずに流されるように生きています。

凡庸さを自覚している善良な黙然(モーラン)は、幼馴染の泊陽が闖入者の如玉に惹かれていくことに嫉妬を感じていました。小艾の服毒事件で微妙な三角関係が壊れた後、彼女もまた渡米して離婚を経験し、製薬会社に勤務しながらも他者と深い関係を持つことを、自分に禁じているようです。

三者三様の孤独な生き方は、小艾の事件に関わったことの贖罪なのでしょうか。それは、天安門事件民主化運動に携わった世代を見捨てて、その後の繁栄を謳歌している世代が密かに感じている自責の念が凝結したものであるようにも思えてきます。

小艾の死は、3人の人生を再び動かし始めます。渡米した2人の女性のうち、ひとりは死病に罹った元夫との関係を修復し、ひとりは北京に戻って事件の真相を泊陽に告げることになるのですが、3人は「孤独よりも大切なもの」を見つけることができるのでしょうか。北京大学卒業後に渡米して英語で小説を書き続ける著者が、孤独と贖罪というテーマと真摯に向き合った作品です。

2017/9