りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

突然ノックの音が(エトガル・ケレット)

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ピストルを持つ見知らぬ男に「話をしてくれ」と脅される作家、孤独をまぎらわすように毎晩寝場所を変える男、人の言葉をしゃべる金魚、自爆テロで命を落とした末期がん患者、疲れ果てた神様の本音、安息日に食べるチーズ抜きのチーズバーガー・・。

イスラエルの作家による短編集は、超現実的な設定を笑いのめすかのような「軽やかなユーモア」に満ちています。時にそれは「ブラックユーモア」でもあるのですが。それは、パレスチナ紛争を抱える国家で兵役にもついた、著者の経験が生み出した感覚なのでしょう。

長い歴史を背負った民族が造った新しい国家で、旧いものと新しいものが緊張感を持って同居して様子が、作品の中に反映されているようにも思えます。

一番好みだったのは「嘘の国」。今までついてきた嘘が生み出した世界があることを知った嘘つき男が、嘘つき女に出会う物語。「どうせなら、誰も不幸にならない、優しい嘘をつこう」と決意する2人の関係に、何とも言えないほのぼのとしたものを感じたのです。

2015/10