りぼんの読書ノート

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高い窓(レイモンド・チャンドラー)

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村上春樹さんによるチャンドラーの新訳の5冊めです。チャンドラーの長編は7作あるとのことですが、全部の翻訳を試みるつもりであることが巻末に記されていました。残り3冊の新訳を、楽しみに待ちましょう。

私立探偵フィリップ・マーロウの今度の仕事は、裕福な老女エリザベス・マードックからの依頼でした。ダメ息子のレスリーが嫁に迎えたものの出奔したリンダが、亡夫が遺した希少な金貨を持ち逃げしたと信じているのです。しかし、レスリーは何か別のことを知っていそうです。そして、エリザベスの秘書のマールの何か怯えた様子も気になります。

ハードボイルド小説の典型として、マーロウの行く手には、探偵への恫喝、美女の誘い、謎の死者が待ち受けています。金貨の件は、ダメな奴がやってはいけないことに手を出した報いなのですが、事件の捜査から浮かび上がってきたのは、8年前に起きた事件に端を発していた忌まわしいできごと。本書のヒロインは、おどおどした様子のマールだったのですね。

ラスト近く、マールを実家に送り届けた後の「詩を一つ書き上げ、とても出来の良い詩だったのだが、それをなくしてしまい、思い出そうとしてもまるで 思い出せない時のような気持だった」との文章が、印象に残った作品でした。

2015/11