りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

笹の舟で海をわたる(角田光代)

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本書の主人公である左織は、昭和8年(1933)生まれ。終戦から10年たった昭和30年、22歳の左織は「疎開先が一緒だった」という風美子から声をかけられ、2人の女性の長い関係が始まります。実は、風美子が左織と出会ったのは、偶然ではありませんでした。

左織と風美子はやがて義理の姉妹となります。平凡な専業主婦となって子育てをする左織と、料理研究家として有名になる風美子の生き方は対象的ですが、それだけではありません。左織は、常に彼女をリードしてくれる風美子に対して、羨望と嫉妬の入り交じった感情を覚え続けるのです。そして、疎開時代に陰惨なイジメにあっていたという風美子の過去を聞いたとき、自分の中で葬っていた過去を思い出します。

左織は著者の母親と、左織に反発する娘の百々子は著者自身と同世代だそうです。「女性が自分の力で人生を切り開いていく」という考え方が一般的になるのは、ごく最近のことなのかもしれません。「笹舟で流されてきたような人生」は、頼りないものなのか。それともしなやかな生き方なのか。時代に縛られてきた左織と、時代を超越した風美子の生き方は、比較対象ではないのでしょう。

本書を読んで、世代差による価値観の違いを考慮する必要性を改めて気づかされました。それと、現代の共通観念であろう「人生は自分で切り開くもの」という呪縛の怖さも。

2015/11