りぼんの読書ノート

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激流(柴田よしき)

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物語の始まりは、中学校時代の修学旅行。7人組のグループで行動していた京都で、ひとりの女生徒・冬葉が突然失踪し、消息を絶ってしまったのです。

それから20年後、35歳になったグループのメンバーに過去の亡霊が蘇ります。発端は2人の女性に届いた「わたしを憶えていますか? 冬葉」というメールでした。しかもそれをきっかけにしたかのように、それぞれのメンバーに、誰かの悪意が込められたような事件が次々と襲いかかってくるのです。

文芸雑誌の副編集長となり、浮気をした夫との離婚調停中の圭子。薬物中毒から再起中の、歌手で小説家の美弥。誰からも美人と憧れられていながら、平凡なサラリーマンと結婚して主婦売春に手を染めた貴子。東大を卒業して一流メーカーに就職しながら、出世コースを外れてしまった豊。高校を中退して音信不通になっていた悠樹。そして警視庁の刑事になっていた耕司。彼らの人生は軋みだし、やがて殺人事件も起こります。

冬葉の失踪事件の真相や、メールを出した者の正体が明らかになっても、それぞれの物語は終わりません。メールは、これまでの人生で築きあげ、あるいは壊してきた人間関係の歪みを表面化させたきっかけでしかなかったのですから。

著者は登場人物の一人に「人生で出会う事件とは、小川に流した笹舟が、いつの間にか激流に巻き込まれているようなもの」という趣旨の発言をさせています。行く手に激流が待ち構えているのかどうかわからないまま、流れに乗っているのが人生というものなのでしょう。

2017/9