りぼんの読書ノート

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ムシェ 小さな英雄の物語(キルメン・ウリベ)

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亡くなった親友に「さあ、これがある英雄の物語だ、僕の最愛の友よ」と、捧げられた作品です。ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオの著者であるバスクの詩人が描いた「小さな英雄」とは、どのような人物だったのでしょう。

スペイン内戦下の1937年。ゲルニカ爆撃の直後に、2万人のバスクの子供たちが欧州各地に疎開したそうです。著者は、当時8歳の少女カルメンチュを引き取ったベルギーの文学青年ロベール・ムシェの生涯をたどっていきます。貧しい家庭に生まれながら、友情に恵まれ、恋を知り、結婚し、子供を愛し、共産主義者となり、反ナチス抵抗運動に加わって逮捕され、大戦末期にノイエンガンメ強制収容所から移送されたリューベックで消息を絶った人物。

第2次世界大戦の勃発によってバスクへ帰還した、カルメンチュの消息は失われてしまいます。しかし、後に生まれた自分の娘をカルメンと名付たことが、両者の関係をうかがわせてくれます。著者は、カルメンをはじめとする、ムシェを知る人々からの聞き取りによって、彼の人生を再構築していきます。四つに裂かれた手紙、止まったままの腕時計、妻ヴィックの日記・・。これらの破片が、コラージュのように結び付けられていくのです。

著者は、本書の背景にあったものは「親友の死と、娘の誕生と、若い読者に伝えたいこと」であったと述べています。若い読者に伝えたかったこととは、「著者の強い反戦への思い」なのでしょう。

2016/3