りぼんの読書ノート

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一八八八切り裂きジャック(服部まゆみ)

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19世紀末のロンドンを恐怖に陥れた娼婦連続殺人事件。医学留学生の柏木薫と、ロンドン警視庁に派遣されていた鷹原光が、「切り裂きジャック」の事件に関わっていく物語。レオナルドのユダと同様、歴史に題材を採ったミステリです。

同時期にベルリンに医学留学していた森林太郎北里柴三郎、ロンドンで図書館行政を学んだ田中稲城は「友情出演」程度のチョイ役ですが、エレファントマンが人気を博し、降霊術が流行ったヴィクトリア朝末期のロンドン世情がたっぷり織り込まれています。

そして柏木が、隣家に住んでいた6歳の少女(後のヴァージニア・ウルフ)との交流を通じて小説家への道を選ぶようになることは、メインストーリーからの副産物。しかし、澁澤龍彦に影響を受けた著者としては、むしろこちらが本筋なのかもしれません。

切り裂きジャック」といえば、パトリシア・コーンウェルが同名の著作で、巨費を投じた科学的捜査の結論として犯人を特定していましたが、その人物は本書には登場しなかったようです。著者が導き出した結論はいささか常識的でしたが、推理の巧みさを読ませる作品ではありませんね。王室関係者をも巻き込んでの「結末」にも時代の雰囲気が顕れているのでしょう。犯人と疑われた者への社会的制裁は気の毒でしたが・・。

2016/3