りぼんの読書ノート

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悲嘆の門 下(宮部みゆき)

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下巻に入って、物語は疾走感を強めていきます。悲惨な事件に対する義憤に駆られた孝太郎は、異界から訪れた怪物・ガラに助力を求めて「力」を得るのですが、それは何をもたらすのでしょう。なぜかガラは孝太郎に対して何度も謝り、「狼」となっていたユーリも彼を引き留めるのですが・・。

連続殺人事件と思われていた一連の事件は、それぞれ別の事件だったようです。しかし、異なる背景、異なる動機、異なる犯人による犯行でありながら、それらはなお、共通点を持っているのです。人間の情念や悪意が、いかに似かよっていることか。そして、一見すると匿名性を持っているかのようなネットが、いかに悪意を増幅させていることか。

やはりそれらは「英雄の書」に結びついていくものだったのでしょう。本シリーズの中で「サークル」と呼ばれる異世界も、ネット社会の延長線上にあるもののように思えてきます。見えそうで見えないもの、書けそうで書けないものを、あえて小説の題材にした著者の挑戦は果敢です。

美香に対するネットでのイジメは収束していたのか。孝太郎は現実世界にとどまれるのか。ガラは何を求めたいたのか。最終章に向かって加速していく物語は、読者を捉えて離しません。

2015/10