りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ウエストウイング(津村記久子)

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はじめは「生命力に欠ける女のグダグダ小説」と思ってしまった津村さんの作品の良さを、最近になって理解できるようになってきました。「普通の人々」が「普通に暮らす」ことを阻むもの、それは他者の悪意やエゴであったり、悪天や不運であったりするのですが、傷つきながらも「普通に対応する」物語なんですね。「対応」には、立ち向かうだけではなく、逃げることも、癒しのための休息を取ることも含まれるようです。

大阪のターミナル駅から地下道を延々歩いた先にある、古びた椿ビルディングの西棟。そこにある空きスペースを偶然見つけてサボリ場所に使い始めた3人が、不思議な交友関係を築いていきます。職場に不満を持つ30代OLのネゴロ。将来を不安に思う20代会社員のフカボリ。勉強に興味を持てず進路に悩む小学生のヒロシ。サボリ時間の異なる3人は、互いのことを知らないまま、メッセージを残して、職場の不用品や手作り品の物々交換を始めるのです。

ネゴロの後輩OLのトイレでの出産、フカボリが発見した向かいのビルの幽霊、ヒロシが始めたロッカー管理のバイト、とにかくうちに帰りますを思わせるゲリラ豪雨による地下道水没、感染症の発生などの事件を通じて、3人は接近しはじめ、少しずつ距離が近づいていくのですが、そのスピードはじれったいくらい。そして、椿ビルディングが取り壊されようとするときに・・。

もちろん、連帯して反対運動を起こすわけではありません。彼らの関係は、あくまでも緩やかな繋がりでしかないのですから。それに比べて、会社の上司や先輩や取引先や家族などの基盤を持つ結びつきは、逃げられない分、少々鬱陶しい。でもそれが否定されているわけでもない。このあたりのバランス感覚が、この著者の特徴なのでしょう。

2015/2