りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2019-01-01から1年間の記事一覧

回復する人間(ハンガン)

後書きで「この本はほかの読み方をすることが困難なほどはっきりしている。それは『傷と回復』だ」と評されています。痛みを抱えて絶望の淵でうずくまる人たちは、どのようにして一筋の光を見出していくのでしょう。アジア人初のマン・ブッカー国際賞を受賞…

まんまこと7 かわたれどき(畠中恵)

時が止まったような「しゃばけシリーズ」と異なり、こちらのシリーズではどんどん時間が流れていきます。神田町名主の跡取り息子の麻之助は、愛妻と娘を失った痛みから癒えつつあるようですが、ついに再婚話が登場。「噂」をテーマとする本書の6編の中でも…

チンギス紀 4(北方謙三)

それぞれ強大な隣国であるケレイトとメルキトの本格的な戦闘がついに始まりました。ケレイトのトオリル・カンに連なる娘を妻に迎えたジャムカは、テムジンとともにケレイト軍の先鋒を担い、メルキト軍に痛撃を与えます。しかし2人が戦場を去った後、ケレイ…

紅霞後宮物語 第9幕(雪村花菜)

中国史に関する豊富な知識をもとに書き著わされた軽妙なシリーズも、なんと9作目になりました。さらに本編開始前の「ヤング小玉編」にあたる『第0幕』も既に3作発行されているので、全部では12作。登場人物も増えてきたので、本巻からは人物紹介や相関…

アメリカの鱒釣り(リチャード・ブローティガン)

柴田元幸氏が「翻訳史上の革命的事件だった」と述べている、藤本和子訳が発刊されたのは、1975年のこと。しかし革命的なのは翻訳だけではありません。氏によれば「その後の村上春樹作品ですら、本書なくしては考えられない」というほどの歴史的名作なの…

三人屋(原田ひ香)

フランス語で「1日」という意味の「ル・ジュール」という店名なのに、街の人から「三人屋」と呼ばれているのには理由があります。この店は、朝はしっかり者の三女の朝日が営む喫茶店、昼は責任感の強い次女のまひるがを振るううどん屋、夜はセクシーな長女…

王様のためのホログラム(デイヴ・エガーズ)

サウジアラビア国王の名を冠した建設中の大都市にホログラム技術を売り込むために、アメリカのソフトウェア会社から送り込まれたアラン。自転車製造会社で敏腕営業マンだった彼の任務は、国王に対して直接プレゼンを行うこと。しかし国王の来訪予定は判明せ…

千里伝(仁木英之)

中国唐代。征東大将軍の高承簡と、もとは上半身は絶世の美女ながら下半身は猛禽という姿をしていた異類の母親・紅葉の間に生まれた少年・千里は、18歳になっても外見は幼児のままでした。しかしこの少年は、人類と異類のいずれを大地の支配者とするかを定…

赤い人(吉村昭)

明治14年、政府は石狩川上流に樺戸集治監の設置を決定し、終身懲役囚に赤い獄衣を着せて押送します。かくして地の果てにおける絶望的な監獄生活が開始させられました。夏は虻と蚊、冬は極寒に苦しめられる中で、まずは自らが収監される獄舎を建設。次いで…

五つ星をつけてよ(奥田亜希子)

等身大の人物の日常の中には、いかに多くの思いが込められているのでしょうか。日常生活を包んでいるフィルターが剥ぎ取られた時に、人は何を思うのでしょう。この著者の作品を初めて読みましたが、観察眼の鋭い方ですね。 「キャンディ・イン・ポケット」 …

イモータル(萩耿介)

インドで消息を絶った兄が残した「智慧の書」とはどのような力を宿していたのでしょう。物語は「智慧のの書」が誕生し、現代へと引き継がれてきた経緯に遡っていきます。 はじめにあったのはサンスクリット語で書かれたヒンドゥー語の根本経典『ウパニシャッ…

草を結びて環を銜えん(ケン・リュウ)

中国SF界に颯爽と現れた著者の第2短編集『母の記憶に』から7編を収録した作品です。従って全作品が既読だったのですが、新たな発見も多く予想外に楽しく読めました。 「烏蘇里羆(ウスリーヒグマ)」 1907年の満州。帝国陸軍の命で恐るべき巨大熊を捕…

宗教が往く(松尾スズキ)

演劇界の鬼才による初の長編小説は、醜悪さの中に純愛を潜ませた作品でした。主人公は、生まれつき頭が異常に大きなフクスケという人物。地方の名家に生まれながら、下女によって弄ばれたあげくに妊娠させてしまい、15歳にして上京。やがて没落した生家に…

2019/10 Best 3

10月にアップしたレビューの大半は、9月の旅行の際に読んだ本のもの。念願の長期欧州旅行に行ってきたのです。古本屋の安価文庫本を買い入れておき、片っ端から読み捨ててくるのですが、いつもより軽めの本ばかりになってしまいますね。ただし上位2冊は…

水滸伝5(北方謙三)

遼からさらに北方へと向かい、梁山泊と女真族との連携を試みた魯智深は、女真族によって捕縛されていました。かつて魯智深にオルグされて彼を慕っていた飲馬山の盗賊・鄧飛は、決死の覚悟で魯智深の救出に向います。 一方で、青蓮寺の李富によって二重スパイ…

水滸伝4(北方謙三)

江州にたどりついた宋江らの一行は、青蓮寺の幹部である黄文炳に居所を掴まれて大軍に攻囲されてしまいます。穆弘と李俊の手勢が宋軍と死闘を繰り広げますが、遠い梁山泊からの救援は間に合うのでしょうか。原典でも前半のハイライトである江州の戦いですが…

水滸伝3(北方謙三)

愛人としていた閻婆借殺害の罪に問われて放浪の旅に出た宋江は、江州へと向かいます。旅の途中で得た仲間が黒旋風の李逵。水滸伝でも一二を争う愛されキャラの人物でしょう。さらに掲陽鎮の顔役である穆弘、彼のライバルで江州の闇塩商人である李俊、飛脚屋…

水滸伝2(北方謙三)

第2巻では、いよいよ晁蓋の率いる革命軍が梁山泊を本拠地として構えます。盗賊に成り果てた一団が籠る天然の要塞をどうやって奪い取るかが、本書のメインストーリー。先に脱獄していた林冲が同志たちに先行して梁山泊入りしたのも作戦の一環。ここで宋江と…

水滸伝1(北方謙三)

今年の春に「北方水滸伝読本」の『替天行道』を読み、この壮大な再構成シリーズを読み返してみたくなりました。とりあえず旅先に第1巻から第5巻まで持参。記憶では、ここまでがひとつの区切りになっていましたので。 冒頭に魯智深が登場する場面が、まず印…

アンのゆりかご(村岡恵理)

戦前から戦後にかけての翻訳家・村岡花子の生涯を、孫娘である著者が綴った作品は、朝ドラ「花子とアン」の原作にもなりました。本書を読むと、彼女の原点が明治期のミッションスクールにあったことがよく理解できます。 日清戦争の前年に生まれた少女が、1…

ラヴクラフト全集1(H・P・ラヴクラフト)

「クトゥルフ神話」で有名なラヴクラフトの作品を、実は今まで読んだことがありませんでした。今では「20世紀アメリカが生んだ怪奇幻想小説の鬼才」として知られる著者ですが、生前はほとんど無名だったとのこと。彼が創造した異次元神世界は、死後に体系…

水族館ガール(木宮条太郎)

市役所に勤めて3年の由香が突然、市立水族館「アクアパーク」で働くように命じられ、とまどいながらも奮闘していくという、若い女性のお仕事小説です。『アクアリウムにようこそ』とのタイトルだった作品が改題され、ジュニア版として文庫化されたもの。 水…

未踏峰(笹本稜平)

ヒマラヤの未踏峰に挑む3人の若者たちは、登山経験もないことに加え、それぞれに問題を抱えて挫折した者たちでした。元システムエンジニアながら薬物依存となって罪を犯してしまった29歳の裕也。才能ある料理人ながらアスペルガー症候群で人と上手につき…

襲来(帚木蓬生)

生涯を日蓮のために捧げた下人の見助は、日蓮の命で派遣された対馬で、蒙古襲来をどのように体験したのでしょう。一貫して見助の視点から描かれた本書は、日蓮宗が生まれた背景であった当時の世相を伝えるとともに、人生においてかけがえのないものを人と人…

べにはこべ(バロネス・オルツィ)

1792年のフランス。王政を廃止した第一共和政が、貴族たちを日夜ギロチン台に送り続ける狂乱の中で、イギリス人の謎の秘密結社が暗躍していました。その結社「べにはこべ」の目的は、血に飢えたフランスから貴族たちを脱出させることであり、その首領は…

セレモニー(王力雄)

共産党建党記念祝賀行事と北京万博が重なる式典年の中国で、感染症パニックが発生。しかしこれは、功を焦る国家安全委員会メンバーが引き起こしたフライングでした。防疫活動を利用して競争相手を排除しようと目論んだ空騒ぎだったのです。WHOによってウ…

僕の光輝く世界(山本弘)

ある事件で視力を失った高校生の少年・光輝は、代わりに不思議な能力を手に入れました。それは損傷を負った脳が視覚神経以外からの情報で創り出した映像を、あたかも実際に見えているかのように思わせるものであり、医学的にはアントン症候群と呼ばれるもの…

案内係(フェリスベルト・エルナンデス)

南米文学が脚光を浴びて久しくなりますが、1902年にウルグアイに生まれた本書の著者のことは全く知りませんでした。「チリは詩人を、アルゼンチンは短編作家を、メキシコは長編作家を生み、ウルグアイは奇人を生んだ」というジョークがあるそうですが、…

白洲正子自伝(白洲正子)

幼少期より梅若流の能の舞台にあがるほど能に造詣が深く、青山二郎や小林秀雄の薫陶を受けて骨董を愛し、『かくれ里』など日本の美についての随筆を多く著し、吉田茂の側近として占領下の日本で活躍した白洲次郎を夫に持ち、梅原龍三郎、細川護熙、河合隼雄…

ある一生(ローベルト・ゼーターラー)

本書で綴られるのは、アルプスに抱かれた村で20世紀はじめに生まれ、貧しく平凡な生涯を送った男の物語にすぎません。しかし誰の人生も特別なものであるように、彼の人生には幾多の個人的な事件が散りばめられているのです。 その男アンドレアス・エッガー…