りぼんの読書ノート

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未踏峰(笹本稜平)

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ヒマラヤの未踏峰に挑む3人の若者たちは、登山経験もないことに加え、それぞれに問題を抱えて挫折した者たちでした。元システムエンジニアながら薬物依存となって罪を犯してしまった29歳の裕也。才能ある料理人ながらアスペルガー症候群で人と上手につきあえない26歳のサヤカ。体格もよく絵の才能に恵まれながら知的障害を持つ27歳の慎二。
 

 

彼らは、通称をパウロさんという北八ヶ岳にある山小屋の主人に雇われたことをきっかけに、ヒマラヤの無名峰に挑むことにしたのです。それは、人生が生きるに値するものだということを知って欲しいという、パウロさんの想いから生まれた計画でした。しかし彼らに登山指導を行い、決行を間近に控えた時点で、肝心のパウロさんが他界してしまうのです。リーダーを失った3人だけで、この計画を実現させることは加納なのでしょうか。 

 

本書は「落ちこぼれた若者たちの再生の物語」であると同時に、かつて著名な登山家であったパウロさんが再び生きる目的を見出す物語でもあります。彼が抱えていた事情も、3人の若者たちと同様に重いものでした。本人が亡くなっても彼が蒔いた種は3人の若者たちに伝わって芽を出していくとの展開は、ストレートすぎる感もありますが、この種の小説はハッピーエンドでなくてはいけませんね。著者のメッセージも伝わってくる作品でした。 

 

2019/10