りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

世界地図の下書き(朝井リョウ)

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両親を事故で亡くした小学3年生の太輔は、引き取られた叔母の家で虐待を受けて「青葉おひさまの家」で暮らしはじめました。はじめは心を閉ざしていた太輔ですが、同じような境遇の5人の仲間たちと過ごす中で、次第に心を開いていきます。中でも太輔の心の支えになったのは、6歳年上で皆のお姉さんのような佐緒里だったのです。そして3年後、高校を卒業する佐緒里が施設を出ていく時が迫っていました。

太輔にはまだ、佐緒里との別れが受け入れられません。しかし大学進学の道が断ち切られて絶望する佐緒里の姿を見て、ささやかな佐緒里の願いを一瞬でも叶えるために、他の仲間たちと一緒に準備を始めます。それは、願いを書き入れたランタンを一斉に空に飛ばすという、途絶えていた祭りのイベントを卒業式の日に復活させることでした。

太輔と佐緒里だけでなく、それぞれイジメに逢って辛い時間を過ごしている淳也と麻利の兄妹も、男づきあいが激しい母親から虐待を受けている美保子も、施設の子供たちはそれぞれに辛い思いを抱えています。しかし本書から伝わって来るものは「ささやかな希望」です。それぞれの道を歩み始める仲間たちに、「私たちは、絶対にまた、私たちみたいな人に出会える」と諭す佐緒里の言葉は、本書の白眉です。

タイトルは、小学6年生になった太輔が感じた「5人だけでいる場所が世界の中心であり、ここから世界が始まっていく」という思いからつけられています。互いを思い合える仲間を探し求めて、今いる場所の外の世界を自分の地図に書き入れていくことが、どんな場合でもスタートポイントであることを実感させてくれる作品でした。

2018/3