りぼんの読書ノート

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ジェネレーション<P>(ヴィクトル・ペレーヴィン)

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宗教とテクノロジーの融合が生み出す恐怖の時代というテーマは、恐怖の兜宇宙飛行士オモン・ラーと共通しています。とはいえ前2作と比較して、本書の背景はよりリアルです。

ソヴィエト連邦が自然死して「涅槃(ニルヴァーナ)」の境地に至り、かつての価値観が完全に崩壊して混沌の中に放り出された時代。キオスクの販売員であったヴァヴィレン・タタールスキィは、友人に誘われて広告業界へと身を投げ入れます。西側ブランドの広告をロシアのメンタリティに合ったものへと変換していく
コピーライターとなったのですが、そこでは強大な力が生み出されようとしていたのです。

タイトルの<P>はペプシコーラのこと。ペプシを選んだ猿が富と享楽を手に入れるという、70年代にロシアで流されたCMの洗礼を受けた世代に、著者も属しているのです。人々の購買衝動を生み出すものは、モノ自体ではなく、そのモノに付属するイメージであることは、資本主義社会に生きる者としてはある意味当然なのですが、そこに政治的かつ宗教的な意味合いが色濃くなってくるとややこしい。マルクスの「物神性」という言葉すら浮かんできます。

広告業界で立身出世を繰り返しながら、同時にメディアの暗部へと堕ちていくようなタタールスキィが行きつく先とはどこなのでしょう。世界を操る黒幕などはおらず、無数の末端を有するネットワーク自体がまるで意志を持つかのように、ある時は偶像を創り上げ、ある時は貶める社会というものは、すでに目新しい概念ではありません。しかし90年代以降のロシアでは、それが悪夢のような現実的な力となってしまったのでしょうか。本書のラストは、まるでプーチンの登場を予言しているかのようなのです。

2018/3