2014-01-01から1年間の記事一覧
1980年にニューヨークで生まれた韓国系アメリカ人小説家といいますから、連作短編の舞台である済州島(本書ではソラ島)のことも、日本による占領や朝鮮戦争直後の時代のことも、自分自身の記憶や体験に基づいているわけではありません。 本書を貫いてい…
ついにバリントン家の跡継ぎ問題も、ハリーとエマの結婚問題も決着がつきましたが、ハリーに新たな敵役が登場してきます。その相手はなんと長年の親友で、エマの兄であるジャイルズ。結婚相手となった伯爵家のヴァージニアがとんでもない悪女で、庶民院議員…
シリーズ第2部の大半は、第二次世界大戦の時代です。戦争の中で、主人公たちの運命も大きく変わっていくことになります。 愛するエマが異母妹である可能性が判明して結婚をあきらめたハリーは、乗り組んだ船が沈められた際に死亡したアメリカ人の名前を名乗…
シリーズ第4巻『機械じかけの子息たち』から36年後。小惑星パラスで、細々と地下の野菜工場を営んでいる農夫タック・ヴァンディには、大きな秘密と悩みがありました。 彼が抱えている秘密とは、彼自身の生い立ちと、反抗期を迎えた一人娘ザリーカの正体の…
マーティン・スコセッシ監督による映画「ヒューゴの不思議な発明」の原作です。映画に対する愛情をテーマとする洗練されたファンタジーは、まるで本書自体が映画のよう。まるでコマ割りのように描かれた何ページもの挿画も魅力的ですし、実際の映画も原作に…
中世終盤の1348年。英仏百年戦争はまだ序盤戦でフランスが大敗したころ。ローマ教皇はアビニョン捕囚の最中。イタリアはルネサンス前夜。ドイツでは諸王家による神聖ローマ帝国皇帝位の争いが続いていました。そしてこの年、ヨーロッパの主要都市はペス…
前作『きりきり舞い』で18歳だった舞も20歳になってしまいました。 中風を病んで気難しさを増した父親・十返舎一九。一九の弟子と舞の許嫁を自称して居候中のがさつな大男・今井尚武。離縁されて出戻ってから居候を決め込んでいる幼馴染の北斎の娘・お栄…
この本のテーマは何だったのか、読後に考え込んでしまいました。ギリシャの島で第二次世界大戦末期に起きた悲劇を描く反戦小説なのか、イタリア軍将校コレリとギリシャ娘ペラギアの半世紀に及ぶ恋愛物語なのか、それともケファロニア島という地域を擬人的に…
シリーズ第3作『アウレーリア一統』から2年後、意識を失って目覚めた少年キリアンは、激しい衝動に襲われて目の前にいる少女アウローラと愛し合います。やがてキリアンは、自分が「プラクティス」という致死性の高い感染病「冥王斑」キャリア団体の一員で…
1980年生まれの若い著者が作り出す奇妙な世界には、不思議と居心地良さを感じます。作家としてはこんな評価は不本意かもしれませんが、バランスがいいのです。「日常世界と陸続きの不条理」とでもいう感覚でしょうか。ただし、うっかり境界を超えてしま…
1970年の『ジャッカルの日』から1996年の『イコン』まで、国際謀略小説の第一人者であった著者が絶筆宣言を覆してから10年。76歳になりましたが、本書でも現代的なテーマに挑戦し、健在ぶりを見せつけてくれました。何よりも、自らが開拓した分…
村上春樹さんの翻訳によるフィッツジェラルド短編集は、『グレート・ギャツビー』の前後に書かれた「若き日の名作集」です。 「冬の夢」 やはりこの作品がベストですね。奔放で残酷な美女ジュディーに翻弄された青年デクスターが、美しさを失ったあとの彼女…
「外交官黒田康作シリーズ」の第3弾です。映画化されたのは2作でしたが、間にもう一冊あったのですね。映画は見ていませんが宣伝の印象が強いので、完全に「黒田康作=織田裕二」になってしまっています。 所用でバルセロナに来ていた黒田は、大使館に掛か…
12歳になる1人娘のダコタを育てながら、ニューヨークで毛糸店を営むシングルマザーのジョージア。多くのサポーターや常連客に支えられ、お店も金曜夜の編み物会もようやく軌道に乗ってきたときに、波乱が起こります。 ひとつはダコタの父親で、ダコタの誕…
カトリック系中高一貫のお嬢様学校で、中等部2年の範子のクラスには、5つの仲良しグループがありました。「お嬢様」の定義から外れている範子は、一番地味なグループに属しているのですが、それなりに平和な日々をすごしていたのです。 ところが、クラスに…
本書に登場する伊藤くんは、典型的なダメ男。ハンサムで、実家はお金持ちで、プライドは高いけれど、自分自身は何者にもなれていません。予備校でアルバイト講師をしながら、シナリオライターを目指しているのですが、それだって口先だけ。とにかく自分勝手…
藤原道長からも一目置かれていた右大臣・藤原実資が遺した『小右記』は、当時の政治・社会・儀式などを今に伝える貴重な日記です。本書は、ひょんな縁から藤原実資邸に集まって「疑似家族」となった庶民たちが、力を合わせて「人喰い鬼」と対決する物語。 も…
有川さんバージョンの『ティンブクトゥ』でしょうか。ポール・オースターの作品では、主人公は犬でしたけどね。 大怪我をした際に救ってもらって以来、サトルの相棒ネコとなったナナは、サトルと一緒に旅に出ます。それはサトルにとって、懐かしい人々を訪ね…
狂った魔女である母親との対決の結果、双子の妹モルを失い自身も大けがを負った15歳の少女モリ。会ったこともなかった父親に引き取られてウェールズからイングランドに移り、3人の伯母たちによって全寮制の学校に入れられたモリの救いは、SFとファンタ…
『ファージング3部作』の著者による「SF作品」とのことですが、本書のどこがSFなのでしょう。 1979年のイギリスで15歳の少女が綴る日記。読み進めていくうちに、主人公の少女モリは、精神を病む母親リズの虐待から逃れる際の事故で双子の妹モルを…
美味しそうな料理を小道具に使って、働く女性たちが一歩を踏み出す姿を描いた連作短編集です。時には主役に、時には端役にまわるアッコちゃんは、芸能界の「ゴッドねえちゃん」クラスの迫力です。 「ランチのアッコちゃん」 恋人に振られた派遣社員の三智子…
北の大地で不器用に生きた女・塚本千春の半生を軸にした連作短編集は、「桜木ワールド」全開の作品です。結果を考えずに退路を断ったような生き方も、家族や友人に背を向けて自分のことしか考えられない性格も、決して彼女に幸福をもたらすことはないのです…
巨匠ケン・フォレットが20世紀を描く「100年3部作」の第2部『凍てつく世界』は、臨場感にあふれた作品でした。近年パッとしない印象があったのですが、このシリーズで完全復活した感があります。やはり同じ時代を舞台にしたサーガ「クリフトン年代記…
926年に、バルセロナ市街で路面電車に轢かれて死亡したガウディ。それは普通の事故死だったのでしょうか。貧しい身なりをしていたため、身元が分からず、浮浪者と間違われたというのは、偶然だったのでしょうか。 「スペイン発ダビンチ・コード」は、晩年…
『ケインとアベル』を髣髴とさせる壮大なサーガと評判の高い、「クリフトン年代記」の第1部。著者が得意とする、庶民階層に生まれた少年が成り上がっていく物語のようです。 1920年代。イギリスの港町ブリストルに住む貧しい少年ハリーは、歌唱の才能に…
「ゴチック小説の女王」による「ヴァンパイア・クロニクルズ」の第4弾です。かつてトム・クルーズとブラッド・ピットの競演で話題となった「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」の原作は、このシリーズの最初の作品でした。第2作の『ヴァンパイア・レス…
ここはトルコ版「マコンド」なのでしょうか。都市郊外のゴミ捨て場に「一夜建て」と呼ばれるバラックを建てた人々が不法に住み着いて出来上がった街。当局によって何度も追い払われながら、そのたびに戻ってきた人々の物語は、トルコ近代化の影を描いた社会…
吸血鬼や人狼が人類と共存し、メカ使用人がお屋敷で働くヴィクトリア朝英国。「ホラー」と「スチームパンク」が同居する独特の世界観に基づいて綴られた「アレクシア女史シリーズ」に続く、「ソフロニア嬢シリーズ」の第2作。 レディのための「花嫁学校(Fi…
「男の子に美少女が落ちてくるなら女の子にもイケメンが落ちてきて何が悪い!」との発想で書かれた冒険恋愛小説ですが、本書の「冒険」はちょっと変わっています。 飲み会帰りの晩、一人暮らしのマンションの前で、捨て犬のように行き倒れていた男を放ってお…
京極夏彦さんのデビュー作です。「この世には不思議なことなど何もない」という、陰陽師の流れを組む古本屋の京極堂こと中禅寺秋彦が、怪奇事件の陰にある憑物を落として事件を解決していく、異色ミステリのシリーズ第1作。 代々某藩の御殿医であったという…