りぼんの読書ノート

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乳しぼり娘とゴミの丘のおとぎ噺(ラティフェ・テキン)

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ここはトルコ版「マコンド」なのでしょうか。都市郊外のゴミ捨て場に「一夜建て」と呼ばれるバラックを建てた人々が不法に住み着いて出来上がった街。当局によって何度も追い払われながら、そのたびに戻ってきた人々の物語は、トルコ近代化の影を描いた社会派小説と、混沌とした神話の間を自在に行き来します。

「花の丘」という全く不釣り合いな名前で呼ばれるようになった「ゴミの街」には、強風が吹き荒れ、工場からは毒性の白い雪が降り注ぎ、やはり毒性の七色の水が流れ込み、謎の奇病が流行ったりもするけれど、個性的な住民たちは生き延びていきます。

初期には盲目のギュルリュ爺さん、憑き物つきの女の子スルマ、黒髪のハサンに床上手のフィダン。工場が作られるようになった時代には、町会議員となったクルド人ジェマル、資本家イザク、組合運動をおこしたギュルベイ親方。チンゲネ(ロマ)の一団がやってきて混乱をもたらした後では、博打うちラドや、無政府主義者たちが登場。物狂いの娼婦ギョニュルや、サッカークラブ監督の恥知らずエロルらが登場するようになると、もう現代に近いのでしょう。

「花の丘」は、「マコンド」のように土に還ることもなく、今もどこかに残っているのでしょう。ひょっとすると、一見普通に見える郊外の街を掘り起こすと、ゴミが出てくるのかもしれません。まるで東京湾の埋め立て地のように。

原題は「乳しぼり娘クリスティン、ゴミのおとぎ噺」。タイトルの前半は「都会で娼婦に身を落とした田舎娘」という意味だそうです。外国人の源氏名をつけた女性は、娼婦とみなされた時代があったとのこと。最初から最後まで混沌とした物語は、幻想的でグロテスクでパワフルです。

2014/10