りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014-01-01から1年間の記事一覧

天冥の標3.アウレーリア一統(小川一水)

シリーズ第3作は、近未来の地球が謎のウィルス「冥王斑」に襲われてから約200年後。人類は小惑星帯を中心に太陽系内に拡散しています。 本書の主人公は、肉体改造によって真空に適応した「酸素いらず(アンチオックス)」の人々が作り上げたノイジーラン…

SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと(チャールズ・ユウ)

「物理法則が93%しかインストールされなかった世界」で、しがないタイムマシン修理工をしながら時間の狭間を漂っている「僕」ことチャールズ・ユウ。UIのタミーと非実在犬のエドをかけがえのない存在として感じながら、電話ボックスと同じくらいの空間…

スプライトシュピーゲル4(冲方丁)

シリーズ読了。異能の少女戦士たちが活躍するYAなのですが、楽しめました。ノンストップアクションの激しさと、意表を突く展開。そして何より独特の世界観が貫かれているからなのでしょう。 国連組織経由で持ち込まれた世界中のテロが、民族主義の残渣と混…

スプライトシュピーゲル3(冲方丁)

民族主義の残渣と、国連組織経由で持ち込まれた世界中のテロが交差する近未来都市ウィーン。超少子高齢化を背景とした児童労働の許可と、重度身体障害者に機械化四肢を与える福祉政策の融合によって生まれた「炎の妖精たち」シュピーゲル。 シリーズ第3作は…

スプライトシュピーゲル2(冲方丁)

核爆弾に転用可能というロシアの原子炉衛星が落下。蠢きはじめた7つのテログループ。陰で操るプリンチップ社。姉妹編の『オイレンシュピーゲル2』と連動するノンストップアクションの始まりです。 日本の窮状を訴える組織から分離した過激派武装集団の「待…

スプライトシュピーゲル1(冲方丁)

永世中立国として誘致してきた国連機関が世界中のテロを招き寄せてしまうという皮肉な災厄に見舞われている、近未来のウィーン。さらに事態を混沌化させている、急速な移民の増加と、ネオナチ的な民族主義の復興。 ここでは、サイボーグとして特殊転送式強襲…

猫のパジャマ(レイ・ブラッドベリ)

2012年に亡くなった巨匠ブラッドベリさんが、2004年に出版された短編集です。1946年から2004年までに書いた作品が収録されていますので、新作だけではないのですが、「ピンピンしているし、書いている」という序文の言葉がいいですね。この…

トッカン-特別国税徴収官-(高殿円)

「若い女性のお仕事小説」というのは、ひとつのジャンルとなっているようですが、本書の主人公は、東京国税局京橋地区税務署に所属する新米税務職員の鈴宮深樹。言いたいことを言えず、すぐに「ぐ」と詰まってしまうため「ぐー子」という情けない通称をつけ…

ナニワ・モンスター(海堂尊)

新型インフルエンザを水際で食い止めようと検疫体制を強化する成田空港を尻目に、なぜか関西で発見された第1号患者。保守的だが知恵のある浪速市医師会のロートルメンバーたち。ナニワの風雲児と呼ばれる府知事が抜擢した、地方でくすぶっている検疫所技官…

本屋さんのダイアナ(柚木麻子)

映画「アナと雪の女王」やドラマ「花子とアン」など、「ダブルヒロイン・ストーリー」が人気を博していますが、本書の2人も強烈です。 金色に染められた髪、大穴という名前、ティアラと名乗るキャバ嬢の母親、行方不明の父親。孤独な小学三年生のダイアナの…

探偵サミュエル・ジョンソン博士(リリアン・デ・ラ・トーレ)

歴史上の人物を名探偵として活躍させる手法をはじめて用いたとされるのが本書です。18世紀イギリスの大文人で、英語辞典の編纂やシェイクスピア全集の編集の功績があるサミュエル・ジョンソン博士を探偵役に、後に『サミュエル・ジョンソン伝』を著した年…

死層(パトリシア・コーンウェル)

シリーズ第20作は、スカーペッタのとんでもなく多忙な1日で幕を開けます。カナダの化石発掘現場で失踪した女性科学者の、耳の断片を写したらしい謎の画像メールが送られてきたと思いきや、ボストンでは巨大なウミガメに引っかかった女性の変死体が発見さ…

政と源(三浦しをん)

73歳どうしの幼馴染、国政と源二郎は、これまでの人生も性格も異なり、ソリも合わないのに、腐れ縁なのでしょうか。ずっと付き合い続けて、周囲からはコンビとみなされています。 総白髪の国政はダンディーな元銀行員で、今は定年退職した身。奥さんに娘の…

凍てつく世界 4(ケン・フォレット)

いよいよ、第2部も最終巻を迎えました。 1943年。カーラがスパイとなったのは必然でした。フリーダの兄ヴェルナーが勇敢なスパイであり、決して腰抜けではなかったことを知って、彼への思いを新たにします。やがてヴェルナーが東部戦線に送られたとき、…

凍てつく世界 3(ケン・フォレット)

真珠湾攻撃による日本の参戦。しかし、まずは冬のモスクワで、次いで太平洋で、戦況は連合国の側に有利に傾いていきます。それとともに、登場人物たちの運命も変わっていかざるを得ません。 1941年。ヴォロージャがバルバロッサ作戦指令を入手していたに…

凍てつく世界 2(ケン・フォレット)

ついに第二次世界大戦が始まりました。登場人物たちの運命も交差していきます。 1937年。モスクワで赤軍情報本部に勤務するヴォロージャは、物理学者のゾーヤと知り合ったのもつかの間、内戦中のスペインへと送られます。そこでは、義勇軍に入ったロイド…

凍てつく世界 1(ケン・フォレット)

20世紀をテーマにした「100年3部作」の、『巨人たちの落日』に続く第2部は、全4巻の大著です。第1次世界大戦前後を扱った第1部から10数年、再びきな臭くなってきた世界では、前作の主人公たちの子どもたちの世代が主役となっていきます。 193…

2014/9 ディア・ライフ(アリス・マンロー)

アリス・マンローさんの「最後の著作」は、年齢を感じさせない力強い作品です。塩野七生さんの著作は「中世三部作」のラストですが、まだまだ絶筆ではありませんよね。 冲方丁さんが「最後のラノベ」とするという作品も面白かったですね。主人公が闘う少女た…

陰陽師~蒼猴ノ巻(夢枕獏)

「行くか」と促す安部清明に、「行こう」と応える源博雅の名コンビが、平安の都に起きる怪異に挑む、著者渾身の「偉大なるマンネリ」シリーズ。蘆屋道満、賀茂忠輔、蝉丸、露子姫、藤原兼家などのレギュラー陣も総登場。 「鬼市」:死者たちが開く鬼市に迷い…

天冥の標2.救世群(小川一水)

日本を代表するSF作家である著者が、「できること全部やる」との覚悟で書き綴っている超大作の第2巻です。本書では、第1巻『メニー・メニー・シープ』で存在が示された7つの勢力のうち、「医師団(リエゾンドクター)」、「亡霊(ダダー)」、「救世群…

ディアスポラ(グレッグ・イーガン)

難解なハードSFの代表のように言われる作品ですが、そんなことはありません。サイバー空間における生命の誕生、宇宙を襲う未曾有の危機、壮大な宇宙進出計画、多次元宇宙の存在、そして超知的生命体との遭遇という、現代SFではお馴染みの概念が壮大なス…

リターン(五十嵐貴久)

第2回ホラーサスペンス大賞を受賞したデビュー作『リカ』の続編です。前書はホラーとのことで避けていたのですが、続編ということを知らずに読んでしまいました。前書が未読であっても理解できるように書かれています。 10年前にリカに拉致されたまま行方…

ミュンヘン(マイケル・バー=ゾウハー)

スピルバーグの映画「ミュンヘン」の原作ですが、本書の内容は、オリンピックさなかのミュンヘンでイスラエル選手団11人を惨殺したテロと、モサドによるその後の報復暗殺だけではありません。パレスチナ問題が発生したイスラエル建国時点から現代に至る、…

ディア・ライフ(アリス・マンロー)

2013年のノーベル文学賞受賞、おめでとうございます。83歳となって引退を宣言した著者の「最後の著作」には、今まで通りの高水準の作品がぎっしりと詰まっています。短編小説の巧みな技法を用いながら、大河小説のように人生を紡ぎあげることができる…

オイレンシュピーゲル肆(冲方丁)

ミリオポリス警察組織・遊撃小隊ケルベロスの3人の特甲少女たちが巻き込まれた、ウィーン空港でのハイジャック事件には、秘せられた目的が潜んでいました。それは、国連都市で開かれる国際法廷での証言者を巡る戦いだったのです。ちなみに国連都市での戦闘…

オイレンシュピーゲル参(冲方丁)

シリーズ第3巻は、ミリオポリス警察組織・遊撃小隊ケルベロスの3人の特甲少女のエピソードを描く3つの短編からなっています。 「吹雪との思い出」 スパイプログラムに脳を侵されたMPBの通信解析官の吹雪を救出するために奮闘する黒犬・涼月。いい関係…

こちら弁天通りラッキーロード商店街(五十嵐貴久)

映画「俺たちは天使じゃない」に対するオマージュのような作品です。それも、ハンフリー・ボガートの1955年版と、ロバート・デ・ニーロの1989年版の両方に対して。 友人の連帯保証人になったことから莫大な借金を抱えてしまった、印刷工場経営者の笠…

水軍遙かなり(加藤廣)

和田竜さんが『村上海賊の娘』で描いた村上水軍のライバルといったら、九鬼水軍。信長の発案による「鉄甲船」を建造して、毛利水軍を撃破した立役者として名高い志摩水軍の頭領です。信長、秀吉、家康に仕えた九鬼嘉隆、守隆親子が主人公。 『信長の棺』で「…

村上春樹 雑文集

インタビュー、受賞の挨拶、海外版への序文、音楽論、書評、人物論、結婚式の祝電・・。著者が「雑文」と名づけた文集には、デビュー作「風の歌を聴け」受賞の言葉から、エルサレム賞スピーチ「壁と卵」までの未収録・未発表の文章が69編、ぎっしりと詰ま…

皇帝フリードリッヒ二世の生涯(塩野七生)

「ローマ以降」を描いた「中世3部作」の棹尾を飾るのは、「中世を超えた男」であるフリードリッヒ2世。すでに『十字軍物語3』にも登場した人物です。 赤ひげ王フリードリッヒ1世の孫としてシチリア王であったフリードリッヒは、空位になっていた神聖ロー…