20世紀をテーマにした「100年3部作」の、『巨人たちの落日』に続く第2部は、全4巻の大著です。第1次世界大戦前後を扱った第1部から10数年、再びきな臭くなってきた世界では、前作の主人公たちの子どもたちの世代が主役となっていきます。
1933年のドイツ。ナチスは、総選挙直前に起きた国会焼き討ち事件を共産党の陰謀と断定。白色テロルを宣言し、暴力的に選挙に干渉。それでも過半数に至らなかったナチスは、カトリック系の中央党の協力を得て「全権委任法」を成立させます。ドイツの民主主義はわずか14年で死に絶えたのです。社会民主党国会議員の夫ワルターと、イギリス貴族の娘でジャーナリストの妻モードらの反対は暴力によって沈黙させられました。2人の娘カーラの世界は凍ついていきます。
1935年のアメリカ。ロシアからの移民実業家レフ・ペシュコフのもとには、異母姉弟のデイジーとグレッグが育っていました。デイジーは地元の名家の御曹司チャーリーと婚約したものの、父親の卑劣な買収劇のせいで地元社交界からはじきだされてしまいます。知らずに陰謀に協力させられたグレッグは、その過程で出会った黒人の女優の卵ジャッキーと恋に落ちますが、白人と黒人の結婚など夢物語にすぎないことを思い知らされます。
1936年のロンドン。3年前のベルリン訪問の際にナチが政権を握る瞬間を目撃した、イギリスの庶民党国会議員のエセルと、労働党青年同盟ロンドン支部長の大学生ロイドの母子は、今度は自国イギリスで勃興しつつあるファシズムと戦っています。イギリスに渡ってきたデイジーに恋してしまったロイドでしたが、爵位に憧れるデイジーは、あろうことかファシストの貴族ボーイと結婚。ロイドとボーイが異母兄弟であることは、本人たちには知らされていません。ロンドン市街のデモでファシズムに勝利したロイドは、内戦中のスペインに渡る決意をします。
まだ10代そこそこの第二世代の子どもたちも、否応なしに現実に直面せざるをえません。しかし、彼らを取り巻く現実の厳しさの度合いには、大きな差があるようです。カーラの上に立ち込める暗雲の深さが際立っています。
2014/10
(脚注)第1部の主人公たちを復習しておきましょう。
・ウェールズの貧しい炭鉱夫の利発な娘エセルは、地元の名門フィッツハーバート伯爵家のメイドとなりました。彼女が産んだ、伯爵の非嫡子がロイド。ロンドンに出てきたエセルは、伯爵の妹モードを盟友として婦人参政権運動に参加し、国会議員にまでなっていきます。
・ロシアで家族をツアーリに処刑された、グレゴーリーとレフのペシュコフ兄弟。不良だったレフはロシアで孕ませた娘を捨てて渡米。ギャングまがいの行為で禁酒法時代に財をなし、正妻の子デイジーと妾の子グレッグを得ました。