りぼんの読書ノート

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スプライトシュピーゲル4(冲方丁)

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シリーズ読了。異能の少女戦士たちが活躍するYAなのですが、楽しめました。ノンストップアクションの激しさと、意表を突く展開。そして何より独特の世界観が貫かれているからなのでしょう。

国連組織経由で持ち込まれた世界中のテロが、民族主義の残渣と混沌を織りなしている近未来のウィーンで国際戦犯法廷が開かれようとしています。裁かれるのは、スーダンで起きた大規模民族殺戮の責任者と目されるアブドル・アツィム将軍。そして裁判に召喚されて一堂に会した、いずれも高潔な人格を持つ6人の証人たち。

しかし、証人保護の任についたMSSと「シュピーゲル」少女戦士たちを嘲笑うかのように、証人たちは次々と殺害されてしまうのです。悪の組織「プリンチップ社」に雇われた戦術指揮官ホイテロートは、誰をどう操っているのか。ウィーン市内に持ち込まれた民族間の戦闘と、レベル3の超絶戦闘能力を持つ2人の特甲猟兵少年の破壊力を押し止めることはできるのでしょうか。

本書と連動するオイレンシュピーゲル4は、正体不明ながら最重要な7人めの証人を守るための国際空港での戦いでした。スプライトの鳳(アゲハ)とオイレンの涼月の間で、携帯電話を通じて交わされる激しい会話は、もちろん両シリーズで共通ですが、複数の視点から見ることで、互いの背景を理解できるようになっています。そして、互いの隊員たちが異なる小隊長の指揮下に入って闘う最後の戦闘シーンも、視点を変えることで新味が加えられています。

先に「オイレン」を読んでいたので結論はわかっているのですが、それでもドキドキしてしまうのは、著者が巧みだからなのでしょう。この後天地明察をはじめとして一般小説の世界でもクリーンヒットを飛ばし続けている著者ですが、両シリーズが統合されるという『テスタメント・シュピーゲル』は最後まで書き綴って欲しいものです。

2014/10