りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008-01-01から1年間の記事一覧

新世界より(貴志祐介)

1000年後の日本を描いたSF小説ですが、これはおもしろかったですね。何の予備知識も持たずに読んでいただくのが一番ですが、それではレビューになりませんので少々コメントしておきます。 利根川沿いの神栖66町で「普通に」小学校生活をおくっている…

ふくろう女の美容室(テス・ギャラガー)

詩人、小説家、そしてレイモンド・カーヴァーの妻としても知られる著者の短篇集です。タイトル作もそうですが、短編10作品の中で美容室が登場する作品が3つ。夫を亡くした中年から初老の女性が、詩情をもって日常の断片を切り取った一人語りが上手な作家…

美女と竹林(森見登見彦)

あの森見さんが、美女はともかく、なぜに竹林? と思ったら、竹林とは深い関係があったのですね。 幼少時代には、父親に連れられて祖父の家の裏の竹林にタケノコ掘り。学生時代には文化人類学の演習で竹による茶筅つくり。大学院では竹の培養を専攻しただけ…

誘拐(五十嵐貴久)

銀行から乗り込んできた上司にリストラ担当として指名された秋月ですが、退職させた先輩が一家心中してしまい、先輩の娘と仲の良かった自分の娘までもが自殺。傷心の秋月は復讐のために、大胆な犯罪に打って出ます。 なんと現職総理大臣の孫娘を誘拐して、折…

天安門(シャン・サ)

フランスのゴンクール賞新人賞を受賞した、シャン・サさんの処女作です。天安門事件で弾圧された民主化運動の女性リーダーだった雅梅(アヤメイ)の心の動きがポエティックに、それでいて力強く描かれています。 雅梅に詩を教えてくれたのに、親や教師に反対…

いっちばん(畠中恵)

「しゃばけシリーズ」第7弾。今日も病弱な若旦那の一太郎の願いは、人の役に立てる人間になること。一太郎と、彼を囲む妖(あやし)たちとが繰り広げる、「大江戸怪奇ミステリ」のはずだったこのシリーズも、かなり人情話が中心になってきました。 「いっち…

ベイジン(真山仁)

北京オリンピックは、少数民族問題や食の安全の問題、環境問題などを覆い隠すようにして無事に終了しましたが、オリンピック直前に刊行された本書では、ありえたかもしれない「最悪のシナリオ」が展開されてしまいます。 本書で描かれたのは、中国では「核電…

西のはての年代記Ⅲ パワー(ル=グィン)

『ギフト』、『ヴォイス』と続いた「西のはての年代記」が、本書で完結。ただ、相当に余韻を残したエンディングですので、続編を期待したいところです。 第3巻の舞台は、中央の都市国家群。主人公の少年ガヴィアは、都市国家エトラの有力氏族のもとで、姉と…

史記武帝紀1(北方謙三)

神話の時代と言ってもいい三皇五帝時代から前漢の武帝時代までの中国正史の第一の書であり、その後の歴史書の原型ともなった「史記」は、司馬遷によって編纂されました。殷周の戦い、春秋戦国時代を経て、秦の始皇帝による中華統一、項羽と劉邦の覇権争いを…

ライト(M・ジョン・ハリスン)

スケールの大きさと、ガジェットの新鮮さで読ませてくれる本でした。久々にかなり本格的なSFを読んだ気分です。 3つの物語が交替で進行するのですが、最後になって意外な関係が明らかになってきます。1999年のロンドン、物理学者カーニーの、量子コン…

見知らぬ場所(ジュンパ・ラヒリ)

既刊の『停電の夜に』や『その名にちなんで』では、異郷に暮らすベンガル人家族の抱く微妙な違和感や哀しみが巧みに描かれていましたが、ラヒリさんは進化していますね。ベンガル風のテイストは隠し味のように使われ、親子の絆や、夫婦の愛情の振幅といった…

修道士カドフェル1 聖女の遺骨求む(エリス・ピーターズ)

シュルーズベリの町を「通過」したことがあります。北ウェールズに向かう途中の雨の夕方。どこに泊まろうか迷いながらドライブしているうちに通過しちゃって、何の印象も残っていないのですが、カドフェルの舞台となった町ということは知っていました。だか…

グッバイ・サイゴン(ニナ・ヴィーダ)

ロサンゼルスの郊外、ベトナムからの移民が集まり住むリトルサイゴンで出会った2人の女性。戦火のベトナムを逃れてアメリカに渡ったアインと、ユダヤ系アメリカ人のジェイナ。 2人に共通するのは悲惨な過去。ベトナム戦争の最中、サイゴンの家族は10代の…

ブラック・ウォーター(T・ジェファーソン・パーカー)

カリフォルニアを舞台とする上質のミステリを提供し続けている著者が、オレンジ郡の女性捜査官、マーシ・レイボーンを主人公としたシリーズものの3作目。 マーシーの同僚の保安官補アーチーが、自宅で意識不明の重傷を負って発見されます。妻のグウェンは、…

テンペスト(池上永一)

池上さんの小説の舞台には、やっぱり沖縄が一番似合いますね。19世紀、滅び行く琉球王朝を舞台にした、千年の眠りから醒めた龍たちが交合する中で生まれたという伝説の女性「真鶴(まづる)」の物語。 女性は公職につけないという伝統に反して、美少女・真…

警官の血(佐々木譲)

宮部さんの『楽園』以来、久しぶりに、読み応えのある日本の長編小説を読んだ気がします。親子三代に渡って警察官となった孫が、祖父の事故死と父の殉職事件をめぐる謎を、ついに解き明かすまでの物語。 とはいえ物語の重点は、謎の解明をする「現代」ではな…

2008/9 囚人のジレンマ(リチャード・パワーズ)

今月の1位とした『囚人のジレンマ』は、わかりにくい構造を持った小説でした。でもその分、全てが明らかになったときの感動は大きくなったように思えます。 「世界の神話シリーズ」の一冊である『永遠を背負う男』は次点としましたが、30年の構想で全10…

精霊の守り人(上橋菜穂子)

和製ファンタジーとして、荻原規子さんの『勾玉シリーズ』と双璧と言われている作品ですが、なかなか手を出しにくかったのです。主人公が30歳の女性と聞いて読む気が起きました(笑)。 著者はアボリジニ研究を専門とする文化人類学者とのことでしたので、…

永遠を背負う男(ジャネット・ウィンターソン)

角川書店から刊行されている「新・世界の神話」シリーズの一冊。ジャネット・ウィンターソンによる「アトラス」神話です。もちろん、彼女自身の解釈であり、彼女の自伝的なエピソードまで絡ませた創作です。 オリュンポスの戦いでゼウスに敗れて「世界」を支…

メアリー・スチュアート(アレクサンドル・デュマ)

文豪デュマが歴史小説で大ヒットを飛ばすようになる前に書いた「歴史読本」的シリーズのひとつで、悲劇のスコットランド女王メアリー・スチュアートの一代記です。スコットランド国王ジェームズ5世を父に、イングランド国王ヘンリー7世の娘を母に持ち、は…

生ける屍(ピーター・ディキンスン)

架空の英国王室に起きた怪事件の顛末を描いた『キングとジョーカー』が楽しかったので本書も手に取ってみたのですが、はっきり言って訳のわからない作品でした。サンリオSF文庫史上最も入手困難といわれるこの本が図書館にあったことには感謝なのですが・…

国芳一門浮世絵草紙2 あだ惚れ(河治和香)

天保の改革によって華美な錦絵の出版が禁止される中で、江戸っ子気質を発揮して世相を風刺したり、奇抜な手法で禁令をすり抜るような作品を描き続けた歌川国芳の娘、登鯉(とり)を主人公とした短編連作シリーズの第2弾です。 前作の『侠風(きゃんふう)む…

オレンジだけが果物じゃない(ジャネット・ウィンターソン)

『さくらんぼの性は』の後から翻訳出版されましたが、実はこちらが処女作です。 「父は格闘技を観るのが好きで、母は格闘するのが好きだった」とはじまる本書は、熱烈なキリスト教徒の母親から伝道師になるための厳しい教育を叩き込まれて育ち、世界のすべて…

さよなら渓谷(吉田修一)

ある犯罪をめぐる男女の出会いをミステリー・タッチに描きながら、普遍性の強い「愛」の物語へ昇華させていくという点では、前作の『悪人』と共通しています。でも、両者を比較してしまうとちょっと内容が薄い。 自分の幼児を渓谷に投げ込んで殺害した容疑が…

本所深川ふしぎ草紙(宮部みゆき)

世情に通じて人情にも厚い岡っ引の親分の「回向院の茂七」を狂言回しとした本書は、以前にNHKでドラマ化されてもいます。個人的な「宮部時代劇」の再読企画の第3弾ですが、この本の物語は結構覚えていました。 片葉の芦 強欲者と言われている近江屋藤兵…

キングとジョーカー(ピーター・ディキンスン)

1975年ころに英国王室で起きた、ジョーカーと名乗る人物の悪ふざけ事件。はじめは、ハムが入っているはずの皿の蓋を開けたらガマガエルが飛び出してきたとか、突然グランドピアノが17台も届けられるとかの、他愛のないいたずらだったのですが、段々エ…

ゼロの迷宮(ドゥニ・ゲジ)

パリ大学の科学史教授による、アラビアにゼロが伝えられてアラビア数字が完成するまでをめぐる「歴史ロマン」とのことですが、ネタバレなしではレビューにならないほど内容は薄い。以下は、完全にネタバレです。 2003年のバグダッド。 イラク戦争のさな…

ラジ&ピース(絲山秋子)

FM局アナウンサーの野枝は、人との関わりが苦手で、容姿にも強い劣等感を抱いています。ラジオ局に入社したのも、東京を避けたのも、自分で「対人バリア」を張りまくった結果。入社後もディスクジョッキーを務める番組以外の全てが嫌いで、スタジオだけが…

楊令伝6(北方謙三)

南方で宗教叛乱を起こした方臘は戦死し、北方の燕雲十六州を独立させようとの動きは頓挫。前巻で宋禁軍の南北の戦いは終結し、間隙を縫って一州をほぼ独立させた梁山泊軍ともども、力を蓄える時期が訪れました。 何れの側でも老いていく者と育っていく者との…

泥棒兵士のホームステイ(永田俊也)

原潜が配備されようとしている横須賀で、米軍と市民の交流を深めようという企画に乗ったのは、海軍物資を横流しして金儲けをしようとたくらんでいる水兵クレンショーでした。 彼を受け入れた家庭のほうも、一見幸せそうな裕福な家族と見えたのですが、実はめ…