りぼんの読書ノート

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史記武帝紀1(北方謙三)

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神話の時代と言ってもいい三皇五帝時代から前漢武帝時代までの中国正史の第一の書であり、その後の歴史書の原型ともなった史記は、司馬遷によって編纂されました。殷周の戦い、春秋戦国時代を経て、秦の始皇帝による中華統一、項羽と劉邦の覇権争いを経ての漢の立国といった、日本人にも馴染み深い古代中国のエピソードの出展元ともなっています。

本書は、司馬遷が実際に生きた時代である「漢の武帝」の物語。時代を超越した「天道」の視点に立った司馬遷といえども、時代から自由ではなかったはずで、たとえば司馬遷の描いた始皇帝のモデルは武帝だったのではないか。武帝を描くことがそのまま「史記」の世界を理解することなのではないか・・という趣旨のことを北方さんが書いています。だから、本書のタイトルは「武帝紀」ではなく、史記武帝紀」なんですね。

三国志』や『水滸伝』を新たな視点で捉えなおした北方さんは、古代中国がグローバル化して全土に中央集権制を確立した華々しい時代の主役である「武帝」をどう描くのでしょうか。興味津々な所ですが、まずは衛青と張騫の2人が若き武帝の理念の象徴として登場します。

匈奴の侵攻に脅かされ続けた時代に、長城に拠って防御するのが精一杯だった漢の軍事戦略は、武帝の命を受けた衛青によって一変します。匈奴に匹敵する騎馬隊を鍛え上げ、斬新な戦略で深く匈奴の地に攻め入ることを可能とした衛青によって、武帝の理想は大きく前進します。

一方の張騫は、かつて匈奴に敗れて西域に落ちていった大月氏と軍事同盟を結ぶという壮大な構想のもとに、武帝によって西域に派遣されますが、漢の支配地を出ると同時に匈奴に捕らえられ10数年もの間軟禁状態に置かれてしまいます。妻を与えられ子どももできたものの、張騫は漢の使者の証である符節を手放すことなく、匈奴の地から脱出し徒歩で西域に向かうのですが・・。

この物語は、若々しい武帝とともに漢が成長していった時代が中心になるのでしょうか。それとも、後年になって独断的な専制者へと変質していった武帝も描かれるのでしょうか。晩年の武帝によって司馬遷宮刑に処せられた事件の顛末だって、読みたいものですが・・。

2008/10