りぼんの読書ノート

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史記武帝紀6(北方謙三)

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老境に入った武帝は、死を意識しはじめるようになります。それは一方では政治に対する無関心となって現れ、丞相の公孫賀や、かつての愛姫、衛子夫との間に生まれた皇太子に対して巫蟲の罪を着せるに至る官僚間の権力争いを放置したりもするのですが、一方では感性が研ぎ澄まされていったのかもしれません。

司馬遷がついに完成した五帝本紀を熟読し、父親である先帝の記述に、司馬遷ですら気づかなかった違和感を覚えて破棄を命じるなどは、その例なのでしょう。長期に渡って皇帝であり続ける圧倒的な孤独感の理解者は、ついに幼馴染みの桑弘羊ただひとりになってしまいました。

匈奴の将軍となった李陵は、バイカル湖のほとりで蘇武との再会を果たしますが、2人は淡々と会話し、淡々と別れていきます。極寒の地にただひとり流されて、圧倒的な自然とのみ対峙し続けた蘇武にとっては、漢と匈奴の違いなどはもはやどうでもいいことになっていたのでしょうか。

それでも漢と匈奴の人々にとっては、両国の緊張関係は生死を賭ける出来事です。かつて李陵の部下であった孫広は、李陵に敗れて死を覚悟したものの帝に許され、李陵を撃つよう命じられます。漢と匈奴はまた大きな戦いへ向かっていくのです。物語は終章に向かって走り出しました。

2012/2