時代背景と舞台と主人公のキャラが奇妙にマッチした、楽しい小説です。明治40年。孤児として生まれ、育ての親からも棄てられた12歳の少女フミが、母のような「一流の女郎」になるという「大志」を抱いて自ら人買いに買われ、大陸へと渡ります。
たどり着いた先は、日本を棄てた女性がハルビンの中国人街で開いた「酔芙蓉」。器量が良くないからと女郎屋にも買ってもらえず、下働きに雇われたフミの特技はアクロバティックな「角兵衛獅子の舞い」。
ハルビン駅頭での伊藤博文の暗殺や、辛亥革命による清朝滅亡、満州地方における対日感情悪化などの時代の動きにも影響され、蘭花、牡丹、夏菊、春梅、桔梗など花の名を持つ先輩女郎たちの生き様を見ながら、少女たちは大人になっていきます。
女郎になることを恐れている1歳年上で色白のタエを芸妓にしてあげたいと願い、自らはあくまでも女郎を目指すフミでしたが、それは許されないこと。いつしか2人の少女の運命は交換され、タエは「小桜」の源氏名でお職への道を、フミは「芙蓉」の名をもらって芸妓への道を歩み始めます。
「女郎屋」というダークな世界を舞台としているのに、暗い側面にはあまり触れることなく、時代背景や人物設定も少女漫画的に表面をなぞった程度の感があるにもかかわらず、この、少女が成り上がっていく物語には不思議な爽やかさが漂っています。この本も、ある意味では「奇跡の1冊」なのかもしれません。
2012/2