りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

オレンジだけが果物じゃない(ジャネット・ウィンターソン)

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さくらんぼの性はの後から翻訳出版されましたが、実はこちらが処女作です。

「父は格闘技を観るのが好きで、母は格闘するのが好きだった」とはじまる本書は、熱烈なキリスト教徒の母親から伝道師になるための厳しい教育を叩き込まれて育ち、世界のすべては神の教えに基づいて成りたっていると信じていた少女ジャネットが、ひとりの女性に恋したことからその運命が一転する・・という、自伝的小説です。

自我に目覚めていく時期に体験した、狂信的な母親との葛藤や、同性愛者としての不安。16歳で家を飛び出して雑役婦として働きながら、オクスフォード大学を卒業したとの著者自身の経歴と重なるテーマは、どっぷり重い小説になっても不思議ではありません。それを救っているのは、「人生は不断の物語」との信念に基づく軽妙な語り口ですね。

途中で挿入されている寓話的な物語は、そのまま彼女の心象風景なのでしょう。聖杯を探しにアーサー王の円卓から去っていくパルシファル。彼女を跡継ぎに育てようとしていた魔法使いの許から逃げ出す少女・・。

さくらんぼの性は』に登場する、全てをなぎ倒して我が道を行くかのごとき愛すべき大女(ドッグ・ウーマン)は、狂信的な母親のモチーフに思えます。作者は母親を受け入れて、乗り越えることができたのでしょう。

2008/9