りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

さよなら渓谷(吉田修一)

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ある犯罪をめぐる男女の出会いをミステリー・タッチに描きながら、普遍性の強い「愛」の物語へ昇華させていくという点では、前作の悪人と共通しています。でも、両者を比較してしまうとちょっと内容が薄い。

自分の幼児を渓谷に投げ込んで殺害した容疑がかけられている若い母親・・というと、どこかで聞いたような話ですが主人公はその隣家に住む男女です。逮捕された母親が出まかせに言った「隣家の主人と関係があった」との証言のせいで殺到したマスコミが暴いた男性の過去は、15年前の輪姦事件で大学を退学させられていたというショッキングなものでした。では、男性が同居している身元不明の女性は、いったい誰?

当時の事件に興味を覚えて「その後」を調べた雑誌記者の視点を借りて浮かび上がってくるのは、加害者の消えることのない後悔と、被害者にずっとついて回る悪評。どちらも残酷なものですが、これが「人間の業」と言われると、ちょっと違和感ありです。

2008/9