天保の改革によって華美な錦絵の出版が禁止される中で、江戸っ子気質を発揮して世相を風刺したり、奇抜な手法で禁令をすり抜るような作品を描き続けた歌川国芳の娘、登鯉(とり)を主人公とした短編連作シリーズの第2弾です。
遊郭で太夫に上がろうとしている登鯉と仲のいい娘の悲しいあだ惚れを描いた「裾風」。国芳の紅一点の弟子、芳玉が男嫌いになった子どもの頃のトラウマが暴かれる「馬埒」。国芳が尊敬する北斎の娘で、いかず後家で気が強いお栄の悲しさがほの見える「畸人」。まじめな武家からの縁談とスリの男性への恋心に揺れる登鯉の女心が描かれる「桜褪」。
時代を感じさせる作品が、牢の火事を巡る人情物語の「侠気」です。火事を利用した脱獄の際に、国芳のところに転がり込んで来るのが、高野長英なのですから。実際にも長英の師であった渡辺崋山と交流し、町奉行の鳥居洋蔵から睨まれていた国芳なら、そんなこともあったのかも・・と思わせるエピソード。この作品で明らかになる、遠山の金さんの彫り物の由来は楽しいのですが、お奉行の侠気にもかかわらず、長英の「その後」は厳しいものであることが予感されます。
「あだ惚れ」のいうタイトルは、全編を通して底流に流れているテーマですね。人は、異性にも、尊敬する人にも、時代にも「あだ惚れ」してしまうものなのでしょう。
2008/9