りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ヨイ豊(梶よう子)

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黒船来航から12年、明治への改元まであと3年と迫った時期に、三代目・歌川豊国の葬儀が営まれる場面から物語が始まります。広重、国芳と並んで「歌川の三羽烏」と呼ばれた最後の一人が亡くなった後、版元・絵師・役者たちから名跡を継ぐよう迫られた、二代目・国貞こと清太郎の表情は冴えません。

師匠の娘婿であり、師匠の若いころの名前を継ぎ、師匠の工房を差配している清太郎が大本命であることはわかっています。しかし彼は、素行は悪いものの煌めくような才能に恵まれた、弟弟子の八十八に気後れしていたのです。

そんな間にも、清太郎のそんな思いを嘲笑うかのように時代は大きく動いていました。徳川の世が終わり、明治を迎える激変期の中で、浮世絵が全く売れなくなっていくのです。清太郎は、浮世絵の伝統を守ろうと、ある決意をするのですが・・。

本書は、幕末から明治にかけての開国期にヨーロッパでジャポニズムともてはやされた浮世絵が、なぜ日本では廃れてしまったのかというテーマに迫った作品なのです。「彫り」や「刷り」の技術を必要とする木版が、写真術や西洋印刷技術に圧倒されただけではありません。「浮き世」が「憂き世」となり、古き良き江戸の風情が失われていく中で、浮世絵という芸術文化そのものが消え去ろうとしていたのです。

時代の逆風の中で、無様な生きざまを見せることになった清太郎の心情に迫った作品でした。意味不明なタイトルですが、著者は原稿を書き初めるころから、こう決めていたとのこと。物語の終盤になってその意味が明らかになると、それ以外のタイトルはありえないとすら思わせてくれます。2016年上期の直木賞候補作です。

2017/2