りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ヌメロ・ゼロ(ウンベルト・エーコ)

イメージ 1

2016年2月に84歳で亡くなられた著者の7作目にして最後の小説は、前作のプラハの墓地と同様に、情報操作をテーマとするものでした。

「握りつぶされた真実の告発」を目的とした新聞の創刊を目指して集められた記者たちが、パイロット版として「ヌメロ・ゼロ(ゼロ号)」の編集に取り組む様子が描かれていきます。しかし、ここで言う「真実の告発」とは「出資者の利益となること」に限定され、さらには「強請りや利益供与」を得るためのものなのでした。はじめから出版中止を想定した編集長は、その経緯を小説化して売り出すための準備をするほど。

さまざまな意図が渦巻いている編集局なのですが、日々の会議で繰り広げられる情報操作のテクニックには、あきれるやら、感心するやら。「ほのめかし」を強調することで大衆に与える印象を操作し、さかんに煙を立ててグレーなイメージを作り上げていくテクニックは、まさにポピュリズム

しかし「ムッソリーニ生存論」を「発見」して、戦後のテロ事件や暗殺騒動などと結びつけた「仮説」を展開した記者が殺害されたことから、様子が変わってきます。どんな「陰謀論」がまぐれ当たりで権力者の逆鱗に触れたのか。主人公は逃亡を試みるのですが・・。

真の陰謀は、数々のろくでもない陰謀論の中に隠すのが正解のようです。その一方で一般大衆はどうすれば良いのでしょう。著者は「記憶こそ私たちの魂、記憶を失えば私たちは魂を失う」と述べています。日々起こっている不審ながら有耶無耶なまま放置された出来事を忘れ去ることなく、再構成する力を持つことが、情報操作を免れる唯一の方法なのでしょう。とてつもない意志力と解析力が求められそうです。

2017/2