りぼんの読書ノート

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キングとジョーカー(ピーター・ディキンスン)

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1975年ころに英国王室で起きた、ジョーカーと名乗る人物の悪ふざけ事件。はじめは、ハムが入っているはずの皿の蓋を開けたらガマガエルが飛び出してきたとか、突然グランドピアノが17台も届けられるとかの、他愛のないいたずらだったのですが、段々エスカレートしてきて、ついには殺人事件まで起きてしまいます。しかも一連の事件は、国民の人気も高い13歳の王女ルイーズの出生の秘密と関わっているようで、まさに王室を揺るがしかねない大事件に発展してしまうんですね。

ロイヤルファミリーの「内輪」と「外側」の境界を軽々と越えてしまっているのようなジョーカーの正体がポイントになるのは当然ですが、残酷な秘密に耐えるために「外側」に向けた王室の仮面を身につけるルイーズの視点が痛々しいけど、好ましい。

3代に渡る11人の王子や王女たちを育て上げて、今は寝たきりになっている乳母のダーディが、「内輪」の人間として全ての秘密を握っているのですが、本書の魅力が年齢差70歳のルイーズとダーディの微笑ましい関係にあることは間違いありません。

ところで、本書に登場する英国王室は一種のパラレルワールドです。王位継承者と目されていた兄アルバート・ビクターが、1892年に28歳の若さで肺炎で急死したために王位を継いだ弟のジョージ5世の孫が、現在のエリザベス2世となっているのですが、これはアルバートが長寿を全うしていたら・・との世界。

アルバートの急死後、弟は王位だけでなく兄の婚約者まで継いでしまったので、ダーディが育てあげた11人の王子・王女が全員架空の人物になっているという、細部まで徹底した設定が素晴らしい。実は本書の一番の魅力は、見事に作り上げられたパラレルワールドにあったのです。

2008/9